今年は日本で鉄道が開業してから150年。その歩みと現在の技術、未来へ向けての鉄道の形が分かるのが「鉄道博物館」(さいたま市)だ。日本の鉄道の歴史をひもとく展示や日本で初めて走った蒸気機関車、懐かしい特急列車、精巧で大型の鉄道ジオラマ、SL運転士体験など、館内は驚きがいっぱい。日本の鉄道が丸ごと分かる施設は、大人にとっては修学旅行に来た気分で楽しめる。
JR大宮駅からニューシャトル(埼玉新都市交通)で1駅。「鉄道博物館」は、在来線の高崎線と東北・上越・北陸新幹線の線路の間の敷地にある。館内に設けられた屋上テラスや、休憩スペースからは走る列車が間近で見られ、「鉄ちゃん」ならずとも、わくわくする。
1号機関車大人がさらにわくわくするのが、本館1階の車両ステーション。SLからブルートレイン、クリーム色の車体の特急列車など、日本の鉄道の歴史を彩った列車たちがずらりと並んでいる。SLに始まる日本の鉄道の歴史を彩る36両の実物車両を展示。その迫力は圧倒的だ。
その中でも注目は、「1号機関車」。1872(明治5)年の日本で最初の鉄道開業のために、イギリスから輸入された機関車で、国の重要文化財に指定されている。黒の車体に赤がアクセントのデザインは、絵本の「機関車トーマス」を思わせる。
ガイドさん解説員の説明では、「150年前に走っていた本物です。『官製完成検査合格の1号』だったため、1号機関車の名前になりました」という。開業当初は新橋~横浜間約29キロを53分で走っていた。客車は上等、中等、下等に分かれ、料金は上等が1円12銭5厘、中等が75銭、下等が37銭5厘。当時は銭湯の入浴料が1銭2厘、理髪料が10銭、教員や巡査の初任給が5円~9円ぐらいという時代で、「乗車料金がを現代に概算すると、上等が約1万5000円、中等が1万円、下等が5000円ぐらい。現在の新橋~横浜は480円。1万5000円なら東京~熊本まで行くことができます。開業当時の鉄道は、身分に関係なく乗れるというコンセプトでしたが、かなり高額の乗り物だったでしょうね」と解説する。
SL弁慶号1号機関車の隣に並ぶSL弁慶号は1880(明治13)年、北海道発初の鉄道(官営幌内鉄道)の開業のために、アメリカから輸入された蒸気機関車。スカートのような前部の飾りが特徴的で、西部劇に登場するようなアメリカの古典的蒸気機関車のスタイルだ。
車両ステーションには、SLのほかにブルートレインやクリーム色の特急、初代の東北新幹線などが並び、このほか、「国鉄カラー」と呼ばれたクリーム色に赤いラインの特急「とき」や、クリーム色の車体に緑色の帯の初期の東北新幹線なども並び、大人世代には「これに乗って修学旅行に行ったとか、上京するときに乗ったなど、懐かしそうに語る方も多いですよ」と同博物館は語る。
本物そっくりのSL運転体験★屋外コースを自ら運転
「D51シミュレーター」は〝SLの運転〟が体験できる。D51の前部を使用して制作したシミュレーターで、加減弁、ブレーキなどの操作機器、シリンダー圧力計、給水ポンプ圧力計など本物そっくり。その精巧さは、かつてのSL乗務員も感心するほどだという。蒸気機関車特有の揺れや汽笛も再現され、「憧れのSL運転士」が体感できる。
一方、屋外のコースを自分で列車の運転ができるのが「ミニ運転列車」。芝生と木々がはえた1周300メートルのコースを長さ約2.4メートル、幅約1.2メートルのミニ車両で運転できる。
山手線型のミニ列車運転体験車両は山手線、成田エクスプレスなど在来線でおなじみの形で、コース内には万世橋、汐留、両国橋駅も設置されている。所要時間は約6分で、先行列車の動きに連動した進行の変化など、実際の運転シーンが実感できる。
★レトロ食堂車で楽しむ『大人のお子様ランチ』
食堂車の雰囲気を味わえるレストラン内装やメニューも昭和の食堂車を意識したというのが「トレインレストラン日本食堂」だ。4月29日から新メニューの「盛り合わせセット鉄道開業150年特製ワンプレート」が登場した。
自慢のデミグラスソースを生かした料理で、ハンバーグ、カニクリームコロッケ、オムライスが大皿に乗っている。価格は2180円(税込み)、ドリンクセット2460円(同)。
同レストランでは「もともと人気のあったメニューを1つのプレートにして『大人のお子様ランチ』のような形にしました」という。
懐かしい食堂車のイメージの店内は、父や祖父世代の人が「昔はこれを電車で食べられたもんだよ」と子供たちに話してくれいる場面も見られるといい、「家族のコミュニケーションにもなってくれるといいですね」と同レストランでは話している。
★新橋駅と桜木町駅にトリックアート登場
新橋駅トリックアート のコピー鉄道博物館に保存されている「1号機関車」と〝一緒に〟写真撮影できるフォトスポットが、新橋駅と桜木町駅(鉄道開業当時の横浜駅)に設置されている。鉄道開業150年を記念したトリックアート(人間の視覚の錯覚などを利用し、立体的に見えるアート)で、JR東日本社員のアイデアをもとに実現した。
設置場所はともに南改札の外で、来年3月下旬まで設置。フラッシュで撮影すると隠れた絵が浮かび上がり、実際に写すことができる。床面に書かれた待機列マークに従って並び、撮影ポジションに立ってフラッシュを使って撮影すると、隠れた絵が飛び出してくる。
両駅の京浜東北・根岸線ホームには、当時のSLと駅舎をモチーフにした特別装飾のホーム駅名標もあり(同3月下旬まで)、鉄道開業の気分を味わえる。※トリックアートは(株)エス・デーの登録商標です。
■鉄道博物館 2007年開館、18年には南館のオープンをはじめとする大掛かりにリニューアルされた。館内は車両、科学、仕事、未来、歴史に分かれ、そのほかにも鉄道ジオラマ、鉄道車両の議事疑似運転体験ができるシミュレーターホール、てっぱくシアター、間近を走行する新幹線を眺めながら利用できるビューレストランなど、さまざまな施設がある。入館料は1330円。、小中高生620円。ほかに有料体験プログラムもあり。
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