北海道・知床半島沖で乗客乗員26人が乗った観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」=19トン=が遭難した事故で、運航会社「知床遊覧船」が、波浪注意報などにより風速や波の高さが国へ提出した運航基準を超える荒天予報にもかかわらず、当日ツアーを実施した疑いのあることが28日、分かった。事故では11人が死亡、15人が行方不明になっていたが、第1管区海上保安本部(小樽)は新たに搭乗者とみられる3人を発見。いずれも死亡が確認された。
カズワンを運航していた「知床遊覧船」の、安全を軽視する姿勢が浮き彫りとなった。
関係者によると、同社の運航基準には風速8メートル、波の高さ1メートルに達することが予想される場合には出航を取りやめると規定。事故当日の23日はカズワンが出航する午前10時の約20分前に高さ3メートル以上の波が予想される波浪注意報が出ていた。
同社の桂田精一社長(58)は27日の記者会見で、波浪注意報が出ていたことを把握した上で出航を決めたと説明。行方の分かっていない豊田徳幸船長(54)からは「出航後に天候が悪化する可能性がある」と伝えられていたと明らかにした。ただ運航基準については「具体的な数値は記載していない。暗黙の了解のようなもの」と話している。
桂田社長がこれまで、出航が難しい場合にもツアーを取りやめないよう、別の船長に強く求めていたことも判明。海流などにより安全なツアーの運航が難しいと船長が出航を見送った一方、他社の観光船が港を出ていると、社長は「なぜ出ないんだ」と非難することが多かったという。
また同業他社で船長を務める男性は、豊田船長が「行けと言われるから行くんだ」と漏らしていたと証言した。
同社は荒天が予想されてもツアーを実施するケースが常態化していた。桂田社長は海が荒れた場合は船長判断で引き返す「条件付き運航」だったと説明した。だが斉藤鉄夫国土交通相は28日の閣議後記者会見で「条件付きはあり得ない」と糾弾した。
第1管区海上保安本部は28日午後、カズワンが救助要請した場所から半島を挟み東の羅臼側の海域で搭乗者とみられる成人男性3人を発見。3人は死亡が確認された。1管は業務上過失致死や業務上過失往来危険の疑いでの立件を視野に出航の経緯を捜査している。
国土交通省は小型旅客船の安全対策を検討する有識者委員会を設置。昨年に同社へ監査や指導をしたのに事故を防げなかったことを踏まえ、小型旅客船の監査制度も検証する。
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