「スぺトレ」で選手たちに説明するC大阪・風間八宏アカデミー技術委員長(右)。中央は大久保嘉人氏 【NO BALL、NO LIFE】日が落ち、すっかり肌寒くなった春の舞洲にできるサッカーの輪。10人以上のコーチが見守る中、熱心にボールを追う選手たち。C大阪アカデミー技術委員長を務める風間八宏氏は、この日の「スぺトレ」をこんな言葉で締めた。
「自分の技術は全て相手に勝つ武器。きょううまくいったことをどんどん覚えていこう」
「スぺトレ」とはおよそ月に一度、風間氏がC大阪の下部組織全体の中から、年齢や性別を問わず選抜された選手たちを直接指導するもの。今月20日に実施された回では、10歳から18歳までの男女46人が参加した。練習は約2時間。基本的なパスコントロールに始まり、状況が細かく決まった4つのシュート練習、ハーフコートでの11対11と続いた。
目を引く光景だったのはやはり、学年や性別が入り交じり、普段共にプレーしない選手同士で練習を行う点だ。その意味を風間氏は「味方でもどんな個性があるか見抜かないといけない。そこで頼りになるのが技術と判断。年下ではなく年上の選手がいかに難しいか。相手がどのくらいのパスを受けられるか、どのくらい走れるかを知る必要がある」と説明する。また、多くのカテゴリーが集まることで、それを教える指導者の基準をそろえることにも一役買っていることを明かした。
サッカーの技術や判断力を通し、年齢や性別を超えて選手たちがつながること。風間氏は主に技術や判断力の向上に焦点を当てたが、それは単に「この練習でプロ入りに近付く」という意義を超え、より根本的な部分で「サッカーはどんな人とでも楽しめる」、という意識にまで迫っている印象を受けた。
実際に風間氏は「その中で周りを楽しませられる選手が、プロになっていく」とも話している。この日プレーしたユース所属の高校生たちは、30センチ以上差のある小学生のパスやシュート技術に「うまいなあ」「ナイス!」と素直な称賛の声を送り、彼らを生かすポジション取りやパススピードの工夫を感じさせた。レベルアップとともに、サッカーの楽しさを感じさせるパワーがあることはこの日コーチで初めて参加した大久保嘉人氏も語っており、「(川崎時代に)31歳で風間さんに出会って、サッカーってこんな楽しいんだと思えた。この指導は日本でほかにない」と絶賛している。
風間氏は「これからもっと仕掛けていきたい」と話し、「スぺトレ」の選抜メンバーで対外試合を行う計画があることなどを明かした。クラブの下部組織全体を通した大がかりな改革が、どのような形で実を結ぶのか。もしかしたらそれはプロ選手の輩出だけでなく、「サッカーの継続率」にも影響があるのかもしれない。そんな意識を持ちながら注目していきたい。(邨田直人)
この記事をシェアする