大観衆の前で天皇杯を掲げる阿部。今季限りで引退するベテランに花道が用意された(撮影・蔵賢斗) 天皇杯決勝(19日、浦和2-1大分、国立)浦和が大分に2―1で競り勝ち、3大会ぶり8度目の頂点に立った。1―1の終了間際に今季で退団する元日本代表DF槙野智章(34)がヘディングシュートを決めた。優勝回数は前身の三菱重工時代を含め、慶応BRB(全慶応)に並んで大会最多。来季のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場権を獲得した。12日の準決勝に続いて観客数を制限せずに行われ、新型コロナウイルス感染拡大後、主要プロスポーツ最多となる5万7785人が集まった。
全身を稲妻が駆けめぐる。後半ロスタイムに決勝ゴールを流し込んだDF槙野は、スタンドを赤く染めた浦和サポーターのもとへ走り出した。ユニホームを脱ぎ捨て、跳び上がり、右拳を突き上げる。国立競技場を埋めた5万7785人のどよめきと拍手を、裸の上半身で受け止めた。
「お祭り男ですから。最後に全部、持っていきました!!」
前半早々に先制しながら、後半45分に1-1に追いつかれた。リスクを負って勝ち越しを狙うか、延長でやり直すか。途中出場した槙野はGK西川に耳打ちした。「どうする、終わらせる?」。答えは「マキが最後持っていけ」。その3分後、右CKのこぼれ球をMF柴戸がミドルシュート。前線に残る槙野が頭でコースを変えると、ゴールへ吸い込まれた。奇跡の瞬間が土壇場に待っていた。
後半ロスタイムに劇的ゴールを決めた槙野はユニホームを脱ぎ、喜びを爆発させた「レッズの5番、槙野を忘れてほしくない一心だった」
浦和は今季限りで引退するMF阿部に加え、11月には功労者の槙野、DF宇賀神に契約満了を通達した。世代交代を加速させるクラブの意思表示だった。2019年12月に「3カ年計画」と銘打ち、22年リーグ優勝を目標に掲げた。2年目の今季は、徳島からスペイン出身のロドリゲス監督を招へい。「ハングリーで野心を持った選手が必要」と、J2から成長株を補強して戦力の若返りを図った。
監督は「大きな愛情を感じて難しかったが、プロとしての決断を下さないといけなかった」と涙ながらに推し進めた。その思いに応えるように、準決勝は宇賀神、決勝は槙野が決勝ゴールを挙げ、クラブへの恩を返す賜杯をもたらした。目標だった来季のACL出場権が置き土産となった。
表彰式後、ベンチ外で出場はなかった阿部が促されて選手の輪に加わり、天皇杯を突き上げた。一時代の終わりと、〝新生浦和〟の誕生を印象づけた。(宇賀神隆)