開幕戦は当初、他カードと同じ午後開始予定だったが、その時間帯は地上波テレビでの生中継がどうしてもできなかった。生にこだわった社長に、中継局から「午前はどうですか」と驚きの提案が舞い込んだ。前例のないことだが、「東京五輪でサッカー女子の決勝も当初は午前中に予定されていた。午前にスポーツを見る文化が残っていると予測した」と決断。星川敬監督には「前代未聞」と不思議がられたが、事情を説明し理解を得て、新リーグの第1試合を勝ち取った。
「社長もスタッフも、選手も監督も、ファンも『WE ARE INAC』、それを考えてやってほしい。とにかくINACマインドを浸透させていきたい」
関わる全てを巻き込み、同じ方向に進ませていく。それが信念だ。その根底には意外な人物からの薫陶があった。
「やっぱり楽天で学んだことが大きいですね。三木谷(浩史代表取締役会長兼社長)さんと星野仙一さん」
星野氏がプロ野球・楽天の監督として初の日本一を果たした2013年、安本社長は当時J2だったヴィッセル神戸の運営に携わっていた。その縁で接することもあり「常に一生懸命やっている君のような人間がスポーツ界に必要だ」と言葉をもらった。高校球児だった安本社長にとって、闘将にかけられた言葉は礎になった。
「常に気にかけたり、メッセージを与え続けてくれた。星野さんのその生き方が僕のバイブルになってます」
闘将の魂を、これから歴史を築いていく女子サッカー界にも注入していくつもりだ。
◆ホームの清掃活動 WEリーグは第3節を終え、INAC神戸は2連勝の勝ち点6で首位。参加が奇数の11チームのため毎節1クラブは「WE ACTION DAY」として独自の取り組みを行うことが義務付けられており、INAC神戸は第2節の9月19日に「INACファミリー六甲アイランドクリーンアップ大作戦」としてホームタウンの六甲アイランドの清掃活動を行った。2日は第4節で、初めて敵地に乗り込んで長野と対戦する。
◆WEリーグとは
★リーグ名の由来 「Women Enpowerment」(女性の社会的地位向上)の略。
★リーグ理念 女子サッカー・スポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する(原文ママ)
★大会形式 11チームによるホーム&アウェー形式の総当たり。全22節、110試合。
★理念推進日 チーム数が奇数のため、毎節1チームは試合がない。そのため、そのチームは理念推進日としてリーグの理念に基づいた活動を行う。
★秋春制 欧州など海外リーグでは主流な秋春制を採用。今季は9月12日に開幕して12月4日に前半戦を終了。来春に再開して最終節は5月21日、または22日を予定。
★プロ契約 1クラブ15人以上のプロ契約が必要で、最低年俸は大卒初任給を念頭に270万円となっている。
★優勝賞金 男子のJ2と同じ金額の2000万円。
■安本 卓史(やすもと・たかし) 1973(昭和48)年2月13日生まれ、48歳。大阪市出身。近大付高では野球部で、90年春の選抜ではベンチ入りできなかったがチームは優勝。近大卒業後、実鷹企画(現学情)を経て2000年11月にライコスジャパン入社。02年に同社が楽天に吸収合併され、13年にヴィッセル神戸に出向。18年9月に楽天を退社し、同10月にINAC神戸の社長に就任。
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