晴天の甲子園に愉快でポップなメロディーが鳴り響く。スタンドには一瞬、張りつめていた緊張の糸が切れたような雰囲気が漂った。その時、バッターボックスに立っていたのは阪神・高橋遥人投手(25)。球場の特大スピーカーから流れていたのは左腕の打席での登場曲『崖の上のポニョ』。そしてブルペンでニヤリと笑っていたのは、仕掛け人・岩崎優投手(30)だ。
昨年から高橋の打席での登場曲を同郷の先輩でもある岩崎がセレクトしており、昨季は鈴木雅之の『違う、そうじゃない』を打席での登場時に流し、虎党を盛り上げていた。
昨オフに「プロ野球静岡県人会」のオンライントークショーに登場した2人はテーマソング決定の舞台裏について「球場に来る方に楽しんでもらおうかなと。みんな同じ(曲調)だったら聞き飽きるかなと思って」と岩崎が説明すれば、高橋も「みんなが楽しめる歌にしてくれたなのかなと思う。打席に入るときに笑いそうになる」と明かしていた。さらに「また(来年も岩崎さんに)お願いしたいと思います」と語っており、今年も先輩が選曲した格好だ。
2021年シーズン開幕から約6カ月。度重なるけがと長いリハビリ生活を乗り越えて復活した背番号29が、9月18日の中日戦(甲子園)で7回無失点の好投で今季初勝利。打席には2度立ち『崖の上のポニョ』が流れた。
そして後輩の後を継いだセットアッパーの岩崎が八回に登板し、無失点でピシャリと抑えて〝静岡リレー〟が完成。白星に花を添えた。
試合後、岩崎は「(高橋は)よく頑張ったんじゃないかなと思います。またやってくれるでしょう」と話し、登場曲については「僕が(高橋のを今年も)選んだか? 違わないけど、違います」と笑いながらごまかした。続けて「この前(初登板だった9月9日のヤクルト戦で)流れたときは(リードされていて)雰囲気的に失敗だったので。こちら側としては今日はホッとしています」と仕掛け人としての心境を語った。
チームは22日の中日戦(バンテリンドーム)で敗れ、同日に2位・ヤクルトが勝利したことで首位陥落。さらに18日に高橋が勝利してから先発投手に5戦連続で白星がついておらず、苦しい状況が続いている(24日時点)。そんな崖っぷちの状況の虎を救えるはきっと崖の上にいる2人の左投げの〝ポニョ〟だけだ。(織原祥平)
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