2019年世界選手権で優勝したレーム。パラのスター選手が国立競技場で跳ぶ (共同)

マルクス・レーム(32)=ドイツ=が9月1日、陸上男子走り幅跳び片下肢義足クラスに登場する。オリンピックの陸上男子走り幅跳び優勝記録は8メートル41。6月に8メートル62を跳んだレームが超える可能性は低くない。

前回リオデジャネイロと同様、オリンピック出場はならなかった。「義足の反発力が優位に働いていないことを証明せよ」―世界陸連の要求にこたえるのは至難の業である。

14歳で右足の膝から下を切断。練習と工夫を重ねて記録を伸ばした。皮肉なことに「義足の優位性」が問われるきっかけが健常者を破って優勝した2014年ドイツ選手権だった。用具のドーピングとさえ批判された。

そのレームの脳の働きを調べたのが東大の中澤公孝教授。縁あって講義を拝聴し、著書『パラリンピックブレイン』を興味深く拝読した。

人は、大脳の中心溝前方にある「運動野」によって体を動かす。右側は左半身、左側が右半身をつかさどる。神経の交差性といい、健常者は同じ側の脳が同じ側の筋肉を動かすことはできない。ところが中澤教授によると、レームは義足に接続した右側の膝関節周囲筋を動かすとき両方の運動野が活動するという。鈴木徹や山本篤ら世界的なパラジャンパーの脳の働きも調査、同様の結果を得た。

脳には元来、失った機能を補う働きがある。彼らは訓練により、義足を操る筋肉をつかさどる運動野が活動する機能をより高めていった。それが〝超人〟だが、普通の人である。

改めて、パラリンピックの父、ルートヴィッヒ・グットマンの言葉を思う。「失ったものを数えるな、残されたものを最大限に生かせ」と。

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