金メダルを獲得し、志土地翔大コーチと記念撮影する向田真優=幕張メッセ(撮影・松永渉平)

東京五輪第15日・レスリング(6日、幕張メッセAホール)女子53キロ級は初出場の向田(むかいだ)真優(24)=ジェイテクト=が決勝で龐倩玉(24)=中国=に5―4で逆転勝ちし、金メダルを獲得した。2016年リオデジャネイロ五輪決勝で、五輪と世界選手権を合わせて16大会連続で世界一だった吉田沙保里(38)が敗れた階級。同じ三重県出身の向田は覇権を取り返し「ポスト吉田」の期待に見事に応えた。

弱気な向田は、もういない。必死に前に出た。残り15秒、好敵手を場外に押し出して5-4と逆転。金メダルを決め、マットから下りると、セコンドを務めた婚約者でもある志土地(しどち)翔大コーチ(34)と涙を流しながら、強く抱き合った。

「翔大コーチとの五輪金メダルという夢をかなえることができて、うれしい。最後は神頼みする気持ち。(指示は)ずっと聞こえて心強かった」

2019年世界選手権3位の実力者との決勝。開始55秒で0-4。劣勢に立たされた。「悔いが残るよ」。志土地氏に背中を押され、第2ピリオドは攻勢に出た。25秒、1分15秒に、ともにタックルを相手に決めて4-4。またセコンドから声が飛んだ。「勇気、出せ!! 行け!!」。相手にしがみつき、場外に押し出し1点を奪取。終盤に失点することも多かったが、大一番で弱さを克服した。

五輪3連覇の吉田と同じ三重県出身。同じ53キロ級を主戦場にすることから「ポスト吉田」と言われてきた。16年リオデジャネイロ五輪は先輩の練習パートナーとして同行。吉田が決勝で散った姿も目の前で見た。5年後、後継者が大逆転で頂点に立った。

「たくさんの人に鍛えていける環境を作ってもらった」

愛知・至学館大3年生の18年春、予期せぬ事態に巻き込まれた。日本協会元強化本部長の栄和人氏による伊調馨らに対するパワーハラスメント行為が発覚。栄氏が選手を指導していた至学館大レスリング部が揺れた。栄氏は同年6月に監督を解任(19年末に監督復帰)されると、向田の周囲もざわついた。外部の人間の目も気になり、外出することも難しかった。

心のよりどころになったのが、至学館大のコーチで、10歳上の志土地氏だった。「近くにいてくれた支えが一番大きい」と向田。技を教わり、練習メニューなどチームの統率目指しているうちに、主将とコーチから恋愛関係に発展した。

周囲から二人の関係に批判の声もあった。母・啓子さん(51)は「しんどい中で、一緒の方向を向いていたのが志土地コーチでした」。向田が五輪代表に内定した19年9月の世界選手権後に、志土地氏は辞表を提出。同10月に2人は婚約した。

昨年3月の同大卒業後、二人は練習拠点を東京へ。コロナ禍のもとでは母校・安部学院高や河川敷などで汗を流した。私生活も含め、愛の力が五輪で証明された。

「自分一人では乗り越えられなかった。自分よりも本当に苦しいことがたくさんあったと思う」

コーチでもあり、大好きな志土地氏に感謝を述べた。東京五輪後と決めていた婚姻届の提出。金メダルで準備は整った。(石井文敏)

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