金メダルを獲得し、泣きながら引き揚げる入江聖奈=両国国技館(撮影・松永渉平)

東京五輪第12日・ボクシング(3日、国技館)歴史を動かした。ボクシング女子フェザー級決勝で、入江聖奈(せな、20)=日体大=が、2019年世界選手権覇者ネストイ・ペテシオ(29)=フィリピン=に5―0で判定勝ち。日本女子初出場で夢の金メダルを獲得した。日本勢の優勝は1964年東京五輪バンタム級の桜井孝雄、2012年ロンドン五輪ミドル級の村田諒太(35)に続き3人目。大学3年生は3年後のパリ五輪を目指さず、卒業後に現役を退く意向を示した。

君が代が流れ、ゆっくりと上る国旗を見つめる入江の目に、ほんの少しだけ涙がにじむ。四方の壁に大相撲の優勝力士が掲額されている、両国国技館。横綱ならぬ、日本女子初出場となったボクシングで衝撃の金メダリストが誕生した。

「何も覚えてなくて、気がついたら着替えていた。(表彰台で)何回もほっぺをつねっていたけど、夢みたいで。いまも夢の中の気がする」

首に掛けた金メダルは、重い。支えてくれた人の思いが、いっぱい詰まっているからだ。

いつものようにぺこぺこおじぎをしながら、笑みを浮かべて入場した。好戦的な左構えのファイター、ペテシオとの対戦成績は過去2勝1敗。得意の左ジャブで相手のガードを弾き、右ストレートをヒットさせた。2回を終えてジャッジの採点は1人が入江、残り4人は同点だった。最終回は残り30秒で出入りからのワンツーとジャブ、ボディー。カウンターのリスクを恐れず、攻め切った。

ボクシング漫画「がんばれ元気」に影響され、小学2年で競技を始めた。足も速く、小学校のマラソン大会ではぶっちぎりで優勝。リレーの代表にも選ばれた。鳥取・後藤ケ丘中陸上部時代は800メートルで全国大会に出場。心肺機能を高めるため、練習ではマスクをつけて走るなど当時から意識が高かった。積み上げてきた基礎体力が、土台になっている。

コロナ禍の影響で6月の世界最終予選は中止。3人のボクサーが夢半ばで出場の道を閉ざされた。引退を選択してもおかしくない状況のなか、スパーリング相手を務めてくれた選手たちに「3人がいなかったら今の私はいないと思う。本当にありがとうという言葉を伝えたい」。五輪開会式出演で話題となったミドル級の看護師ボクサー、津端ありさ(ライフサポートクリニック)も、自身が代表を逃したにもかかわらず合宿に参加。仮想外国勢の〝練習台〟となってくれた。

自身のカエル好きはすっかり有名となった。「きょうは?」と問われて「トノサマガエルです」と即答。金メダルを獲得して約30分後の会見では「自分のなかで有終の美で終わりたいという気持ちが強くあって、大学限りでボクシングはやめるつもり」と、ケロリと言ってのけた。3年後のパリ五輪は目指さず、来年の世界選手権を最後に現役を退く意向を示した。「ゲームが好きなので、ゲーム会社に就職したい」。

国内女子の競技登録者は約500人。「トノサマガエル」が女子のリングに風穴を開けた。(角かずみ)

この記事をシェアする