陸上男子短距離で東京五輪代表の小池祐貴(26)を支える若きマネジャーがいる。慶大競走部出身で小池の2学年後輩にあたる24歳の田中翼さんだ。もともと教師を志していたが、先輩をサポートするため路線変更し、初の五輪に送り出した。

この人のために―。田中さんは、小池の人柄にひかれた。

「信頼できるというか、魅力的だなと思っていました」

2018年の春先のこと。食事をともに取りながら、シーズンの具体的な目標を聞いた。6月の日本選手権100メートル決勝で4、5、6レーンのいずれかを走ってトップ選手のスピードを体感する、200メートルは優勝を争う―。

社会人1年目のスタートを切る頃だった小池は、世界への飛躍を期していた。実際、日本選手権100メートル決勝は6レーンを走り、4位に食い込んだ。200メートルは2位。ともに当時の自己ベストを塗り替えた。2カ月後にはジャカルタ・アジア大会の200メートルを制し、その名をとどろかせた。

有言実行のスプリンターを側で見てきた田中さんは「目標に対してどうアプローチするかという感覚がすごく鋭い。そこに魅力を感じ、サポートしたいと思いました」と明かす。

2人は慶大競走部出身。2学年先輩にあたる小池はアジア大会を終え、より競技に集中するためマネジャーを探し始めた。そこで白羽の矢を立てたのが、跳躍選手としての競技生活に大学1年で区切りをつけ、主務に転身していた後輩だった。

もともと田中さんは教師になるつもりだった。路線変更の考えを友人に伝えると、「変わってるね」と言われたという。それでも依頼を引き受けたのは、相手が尊敬できる先輩だったからだ。「アスリートの競技人生は限られている。何かしら自分がプラスになれるなら」と腹をくくった。

小池が所属する住友電工に昨春入社し、本格的なサポートを始めた。所属は人事部。「スポーツ・健康事業推進室 陸上競技支援グループ」の一員として活動する。週に数回出勤してデスクワークも行うが、メインの仕事は選手のバックアップ。遠征にも同行する。「マネジャーもプレーヤーのように扱ってくれます。選手やコーチのようにサポートしてもらえる。そこが強みです」。小池とともに100メートル代表に名を連ねた多田修平も同社所属だ。

常に心がけるのが入念なメモ。小池や臼井淳一コーチが何気なく口にした言葉をノートに書き留めてきた。調子の良しあしを比較する「データベース」として活用し、いつでも提示できるようにしている。マネジメントのスキルは、慶大時代に顧問の川合伸太郎さんからたたき込まれた。

小池は「細かく『こうしてくれ』と言わなくても、全部を任せられる優秀なマネジャー。本当に助かっている」と感謝する。田中さんは「選手が掲げる目標達成に向けて、コーチと連携を取りながら、できることを一からやっていくことが重要」と背筋を伸ばす。

小池は100メートルで予選敗退。金メダルを狙う400メートルリレーで挽回を期す。「リレー侍」の一角を担う韋駄天は、絶大な支えを力に国立競技場を走る。(鈴木智紘)

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