柔道男子66キロ級で優勝し、一礼する阿部一二三

■7月31日 東京都内は緊急事態宣言下。テレワークなどで自宅にいる時間が増えた今、東京五輪のテレビ中継から目が離せない。ゴールドラッシュに沸いた柔道もそうだった。お家芸では日本人メダリストのたたずまいに、作家の須藤靖貴さんから聞いた言葉を思い出した。

「喜ぶな負けたやつにも親はいる」。故・横綱隆の里がよく口にしていたという。親方のとき、軍配が自分側に上がると小さくガッツポーズをしたり、喜んだりする力士がいると苦々しく言ったそうだ。須藤さんは小説『消えた大関』にこうつづる。「豊かな体の中に歓喜を押し鎮(しず)めるところが、大相撲のダンディズムなのである」

礼に始まり礼に終わる柔道もしかり。2大会連続金メダルの偉業を成し遂げた大野将平も、妹・詩との同日金メダルを果たした阿部一二三も畳を離れるまで笑顔すら見せなかった。

同じ武道の剣道では一本を取った後でガッツポーズをしたら一本が取り消されることもある。五輪競技に加わり国際的スポーツとなったからなのか、柔道はそこまで厳格ではないが、日本のメダリストの所作に「敗者を思いやる武道の精神をわれわれくらいは守ろう」という矜持(きょうじ)を見た。

翻って横綱白鵬の土俵での立ち居振る舞いはいかがなものか。名古屋場所千秋楽の全勝対決で優勝を決めると、ガッツポーズを披露するなどやりたい放題。横綱審議委員会の定例会合で「武道にはありえない。見苦しく、美しくなく、多くのファンのひんしゅくをかったのではないか」という声が上がったのはさもありなん。大横綱に小欄が言うのはおこがましいが、少しは阿部一二三や大野将平らの精神を見習ってほしい。(鈴木学)

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