3位決定戦でリネール(奥)に敗れ引きあげる原沢久喜=日本武道館(撮影・松永渉平)

東京五輪第8日・柔道(30日、日本武道館)男子100キロ超級は2016年リオデジャネイロ五輪銀メダルの原沢久喜(29)=百五銀行=が準決勝で前回100キロ級覇者、ルカシュ・クルパレク(30)=チェコ=に敗れ、3位決定戦はテディ・リネール(32)=フランス=に指導3による反則負けを喫した。リネールは3連覇を逃したが、4大会連続のメダルを獲得した。

最後は鍛えた体が崩れた。払い腰を食らい、左肩が畳についた。準決勝は金メダルへの道が消える敗戦。7分59秒。原沢はあおむけになり、日本武道館の天井を見上げた。3位決定戦も敗れメダルなし。5位に沈んだ。

「悔しい。自分なりにここに向けての人生の決断をした。強い気持ちと執念で闘ったが、力及ばず、負けてしまった」

クルパレクとの準決勝。組んで先に投げ切るテーマで畳に上がった。だが、リオ五輪男子100キロ級王者の難敵を崩せない。足技も生かせず、屈した。3位決定戦は五輪V3の夢が途絶えたリネール。5年前のリオ五輪決勝で敗れた宿敵との再戦は防戦一方。見せ場すら作れないまま指導3つで幕を閉じた。

「周囲がどうこう言おうと、自分が決めたことに沿わないと本当の力は出せない」

銀メダルを獲得した2016年リオデジャネイロ五輪後、壮絶な5年間を送り、たどりついた2度目の舞台だった。

17年秋に発症させたオーバートレーニング症候群や故障に加え、18年には約3年間、所属した日本中央競馬会(JRA)を退会した。その際、人事部から「辞令」という形で託された。

『世界一の柔道家を命ずる』

原沢の自宅のリビングには辞令が飾られる。

1年間はフリーの立場で貯金を切り崩しながら柔道を続け、所属先も百五銀行に変更した。覚悟を持って挑み続ける中、東京五輪男子73キロ級2連覇で、同郷(山口県)の大野将平(29)=旭化成=からの声掛けもあり、大野が拠点とする名門・天理大に毎月のように出稽古。正しく組んで一本を取る、日本柔道の原点を思い出し、復活を遂げて挑んだ母国五輪だった。

「リオ(五輪)が終わって、いろんな人に助けてもらって、幸せな5年間だった。結果で恩返しができず悔いが残る」

神永昭夫が無差別級決勝でアントン・ヘーシンク(オランダ)に敗れた1964年東京五輪の因縁もあった。舞台は同じ日本武道館。日本男子最重量級エースは、57年前の雪辱を果たせなかった。(石井文敏)

原沢久喜という男

●生まれ 1992(平成4)年7月3日生まれ、29歳。山口・下関市出身。

●競技歴 6歳から大西道場スポーツ少年団で競技を始める。下関市立文関(ぶんかん)小、日新中をへて早鞆(はやとも)高に進学。2011年に日大入学。15、18年に全日本選手権優勝、16年リオデジャネイロ五輪銀メダル。世界選手権は17年2回戦敗退、18年3位、19年2位。グランドスラムは通算5勝。

●得意技 内股、大内刈り。右組み。

●東京五輪招致決定時(13年9月)の気持ち 「自国開催でいろんな人にみてもらえる、応援してもらえる。国技の柔道で金メダルを取りたい思いは強くなった」。

●体重約40キロ増 早鞆高入学時は66キロ級だったが、高校3年時のインターハイ前には一日5食を食べ、約3カ月間で10キロ増やすなど100キロ超級で出場した。

●憧れの選手 00年シドニー五輪男子100キロ級金メダルで、日本男子監督の井上康生(43)、04年アテネ五輪男子100キロ超級金メダルで、日本男子コーチの鈴木桂治(41)。

●柔道界の白鵬 井上監督は好きな大相撲の横綱と原沢を重ね合わせ、「柔道界の白鵬」と呼ぶこともあった。痩せ形から、体を大きくして強くなった点が共通。原沢は「顔も似ているといわれる」と苦笑いした。

●リネール 最大の好敵手は12年ロンドン五輪、16年リオ五輪金メダルのテディ・リネール(フランス)。原沢は「実績はもちろん、強い選手」。普段からインスタグラムなどでライバルの情報収集を欠かさない。

●リオ五輪決勝はリネールと対戦 「自分自身すごく調子がよく、手応えがあった。だが展開を作っていけず、臨機応変にできなかった」。

●座右の銘 「平常心」。「試合でも日常生活においても軸をぶらさないようにしている」。「最高の準備をすれば最高の結果が待っている」も大切にする言葉。

●好きなもの タレントは柴咲コウ、芸能人はオードリー。「You Tubeで漫才を見てリラックスする。春日(俊彰)さんはいろんなことに挑戦していてすごい」。好物は焼き肉。

●「マイペース」 東京五輪男子60キロ級金メダルの高藤直寿(なおひさ、28)=パーク24=は原沢の性格を「マイペース」と語る。

●腹筋が割れる 東京五輪男子73キロ級で2連覇の大野将平(29)=旭化成=は原沢の能力を絶賛する。「階段ダッシュが速い。恐ろしいのは腹筋が割れていること。最重量級で割れているのは、知る限り、リネールくらい」。

●吉田松陰 長州藩(山口)の偉人。「自分の野望、夢、目標を強く持って一直線に突き進むのは、自分の人生に影響を与えてくれた」。

●試合前によく聴く曲 「洋楽。ただ単に流して、周りと(の音を)遮断する」。

●ルーティン 特にはないが、「少し心拍数が上がっていると感じたら、深呼吸して整える。逆に上がっていないと感じたら、はやい呼吸を意識して行う」。

●リラックス法 温泉、銭湯に行く。

●サイズ 191センチ、124キロ。ベスト体重は「125キロ」。

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