鍛え上げた自慢の腕を披露する瀬立。上腕三頭筋が盛り上がる (撮影・武田千怜)

新型コロナウイルス感染拡大で1年延期となった東京パラリンピック開幕まで、28日で27日。競技の魅力などを紹介する月イチ特集の第40回は、カヌー女子カヤックシングル200メートル(運動機能障害KL1)で東京パラリンピック代表の瀬立(せりゅう)モニカ(23)=江東区カヌー協会=に迫る。コロナ禍で、スピードを生み出すエンジンとなる上腕三頭筋を徹底的に強化。目標とする金メダル獲得を視界にとらえた。(取材構成・武田千怜)

小松空港から飛び立ったばかりの飛行機が轟音(ごうおん)を立てて上昇する。その勢いに負けず、ひとこぎひとこぎ、瀬立がぐんぐん加速する。7月12日、石川・小松市の木場潟カヌー競技場で公開された日本代表の強化合宿。2大会連続出場となるヒロイン候補ははつらつとしていた。

「金メダルを狙えるというところに感覚としてはある。まぐれとか運を使って金メダルというより、実力で狙えるプランを組んでいる。忠実にこなして、金メダルを取りに行きたい」

初出場した2016年リオデジャネイロ大会は、決勝進出を果たしたが、1位に10秒433の大差をつけられ、「断トツの最下位(8位)」。世界との差を突き付けら「悔しかった」。あれから5年。5センチの成長で金メダルを視界にとらえる位置まできた。「三頭筋、命です」と〝モニカスマイル〟を輝かせ、披露した腕回りは29センチから34センチに成長した。

体重は「りんご3個分です」と冗談交じりに話す23歳は、海外勢と比べて小柄。体が軽いため「パッと出られる」とスタートが強み。「世界一のスタートダッシュ」習得に力を入れた。週3回のウエートトレーニングを欠かすことなく実施。スピードを生み出すエンジンとなる上腕三頭筋を重点的に鍛え上げた。

腕回りが大きくなればなるほどパワーもアップ。パドルでとらえた水を「100%後ろに流せるように」なった。ひとこぎで押し出せる水の量が多くなれば、最大スピードが上がり、「必然的に」タイムも縮む。瀬立の自己最速は54秒93で、リオデジャネイロ大会の決勝で出した1分9秒193から10秒以上速くなった。

強化合宿で瀬立が汗を流した

木場潟カヌー競技場での練習中。「公園内で、『あなたの腕は私の脚より太いわね』って言われました(笑)」。何より力になるのは、声をかけてくれる〝応援団〟の存在。生まれ育った地、東京・江東区の海の森水上競技場で行われる大一番へ「まだ外に出ていない障害を抱えた人たちに、輝ける場所があると伝えたい」。瀬立は覚悟を持って臨む。

◆今年3月に競技を始めたばかりのバーシングル200メートル(VL2)代表、小松紗季(高知県カヌー協会)「今の私がいってもピンとこないかもしれないが、やるからには優勝を狙っていく」

◆カヤックシングル200メートル(KL2)代表の辰己博実(テス・エンジニアリング)「スタートダッシュを強化している。1ストロークで進む距離をしっかり伸ばして臨みたい」

◆バーシングル200メートル(VL3)代表の今井航一(コロプラ)「コロナ禍のこのような状況で戦えるのが、ありがたい。やる以上はひたすら上を目指して頑張っていく」

★〝かっこいいママ〟加治、初の大舞台へ気合十分

カヤックシングル200メートル(KL3)代表の加治良美(40)=ネッツトヨタ名古屋=は1児の母。8歳の息子、永譜(ひさつぐ)くんの応援がパワーの源だ。昔は「『ママを取られる』とカヌーを悪者のように思っていた」という愛息が今では「ママかっこいいよ」と声をかけてくれる。気合十分のママアスリートは、初の大舞台で「表彰台を目指します」と力強く言い切った。

★東京パラリンピックのカヌー競技

東京・江東区の海の森水上競技場で9月2~4日に行われる。両側に水をとらえるブレードがついたパドルをこぐカヤック(K)と、ブレードが片側だけのバー(V)がある。主に下肢に障害のある選手が参加。障害の程度により3つのクラス(障害の程度が重い方からL1、L2、L3)に分かれる。瀬立が出場する「KL1」は9月2日に予選、同4日に準決勝、決勝。

瀬立 モニカ(せりゅう・もにか)

 1997(平成9)年11月17日生まれ、23歳。東京・江東区出身。中学時代に江東区のカヌー部で競技を始めた。宝仙学園高1年時にけがをして、車いす生活に。リハビリを経て、高2の2014年にパラカヌーで競技復帰。16年リオデジャネイロ大会8位。19年世界選手権5位。筑波大。167センチ。



この記事をシェアする