【東京五輪2020 柔道】柔道52kg級 決勝 金メダルを勝ち取った阿部詩=25日、日本武道館(納冨康撮影)

東京五輪第3日・柔道(25日、日本武道館)男子66キロ級の阿部一二三(23)=パーク24=と、女子52キロ級の阿部詩(21)=日体大=がきょうだい同日優勝を果たした。兄の一二三は決勝の中盤にバジャ・マルグベラシビリ(27)=ジョージア=から大外刈りで技ありを奪い、優勢勝ちした。この階級では2008年北京五輪の内柴正人以来、日本勢3大会ぶりの金メダル。妹の詩は決勝でアマンディーヌ・ブシャール(26)=フランス=に延長戦の末、崩れけさ固めで一本勝ちした。この階級で日本勢初の金メダルを獲得した。

こみ上げる感情を抑えきれない。何度も何度もガッツポーズが出た。決勝は8分過ぎ。詩が宿敵を20秒間、抑え込んだ。金メダルが決まると、うれし涙で顔をくしゃくしゃにした。右手、両手を突き上げ、畳を幾度もたたき、喜びを爆発させた。日本女子52キロ級で初の五輪女王に輝いた。

詩(上)は決勝でライバルのブシャールを崩れけさ固めで抑え込んだ(撮影・松永渉平

「うれしさが爆発したのかな。初めてのような感覚が決勝が終わった後には舞い降りてきた。強化してきた寝技が出た」

肩車を狙ってくる第1シードのブシャールに苦戦をしたが、一瞬の隙を突いた。ジュニア時代も含めて詩が海外勢の中で唯一負けた(2019年のグランドスラム大阪決勝)好敵手に粘り勝ち(通算6勝1敗)。最後は手を取り合い、8分27秒の熱闘をたたえた。

世界中のアスリートが練習制限を受けたコロナ禍。周囲から入ってくる情報は五輪開催に否定的な声ばかり。不安もあったが、「1年あれば、まだまだ進化できると思った」。出会った1冊の本を大切に読んだ。

五輪に挑むプレッシャーを察した日体大柔道部の小嶋新太女子監督(46)から手渡された『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社)。84年ロサンゼルス五輪柔道男子最重量級金メダリスト、山下泰裕の「人の痛みがわかる本当のチャンピオンになれ」や、00年シドニー五輪同100キロ超級決勝で「世紀の大誤審」で判定負けを喫した篠原信一の「自分が弱いから負けた」。日本柔道界を引っ張った先人の言葉が心に響いた。

「指導を取られて審判が悪いと言ったとしても負けは負けだ、と。強さが必要だと書いてあった。誤審も何もないぐらい、絶対的に圧倒的に強ければいいと思った」

海外勢から警戒され、我慢の試合展開だったが、ぶれなかった。男子選手でも音を上げる階段ダッシュなど兄の一二三に食らいつこうと歯を食いしばって努力を重ねた自信が、根底にあった。

柔道女子が公開競技だった88年ソウル五輪から33年。敗れた先輩の思いを引き継いだ詩が52キロ級の歴史を変えた。

「私の人生はスタートラインに立ったぐらい。人間としても柔道選手としても、誰からも尊敬される選手になりたい」

21歳が日本武道館で夢を実現。日本女子柔道界にニューヒロインが誕生した。(石井文敏)

この記事をシェアする