白血病の闘病中に病院から一時退院、自宅に友人が集まりサプライズで19歳の誕生日をお祝いしてもらった池江璃花子(本人のインスタグラムより)
コロナ禍による1年延期を経て、東京五輪が23日に開幕する。白血病からはい上がった競泳女子日本代表の池江璃花子(21)=ルネサンス=は、特別な思いを胸に母国での祭典に臨む。大会の顔として世界中から注目される存在だが、出場の権利もあった個人種目にはあえてエントリーせず、リレー種目に専念することを決断した。不屈のスイマーが抱く東京五輪への思いとは-。(取材構成・角かずみ)
「自分の運命で、きっと東京五輪に出ることは決まっていたんだろうな」。23日に開会式を迎える東京五輪。さまざまな困難を乗り越えてきた池江は、この舞台に立つことを「運命」と表現した。
■白血病で水泳と離れるも五輪も1年延期
2019年2月に白血病と診断されたことを公表。それまで世界のトップで戦ってきた19歳から水泳が奪われた。積み上げてきたものが音を立てて崩れたが、20年3月にプールに戻ってから少しずつ、着実に力を戻していった。時を同じくして東京五輪の1年延期が決定。運命の歯車が回り始めた。
今年4月の日本選手権では4冠を達成。東京五輪の出場権を獲得し、復活のヒロインとして大きな注目を浴びた。一方で、個人種目には出場せず、リレーに全力を注ぐ決断を下した。「出場しても戦えない」。かねて五輪に出場するならメダルを取りたい、勝負をしたいと考えていた。東京五輪では、個人ではまだ戦えるまでの実力が戻っていないと冷静に判断した上での選択だった。
■「個人」注目に困惑し取材依頼ほとんど断り
個人として注目されることは池江を困惑させた。次から次へと届く取材依頼はほとんどを断った。「東京五輪の目標を聞かれるのが一番つらい」と周囲に漏らすこともあった。
もやもやした気持ちが晴れない日々。転機となったのが7月3、4日に神奈川・相模原市で行われた記録会だ。競泳競技初日の24日に予選が行われる女子400メートルリレーのメンバーで、200メートルリレーに出場。2日連続で日本新記録をマークした。4日は池江の誕生日。日本新で20歳を締めると、日本新で21歳をスタートさせ、今やるべき道筋が明確に浮かび上がった。
■東京五輪で「力発揮」パリ五輪は個人でメダルを
「東京五輪に出させてもらえるチャンスを得ただけで、ものすごく大きなものではあったかもしれない。自分が与えられたリレーで力を発揮するということをしっかり全うして、結果に結び付けられたらいい」
予定通りに昨年開かれていれば、出場権を争う舞台にすら参加できなかった東京五輪。3年後のパリ五輪では個人種目でメダル獲得を目指す。運命に導かれるように立つ東京のスタート台から、池江璃花子は再出発する。
★ショーストロム「エアーハグしたい」
2016年リオデジャネイロ五輪の競泳女子100メートルバタフライで頂点に立ったサラ・ショーストロム(スウェーデン)が22日、選手村で記者会見。白血病から復帰した池江について「彼女が戻ってこられてよかった。五輪出場は本当にすごい」と称賛した。池江とは合同合宿を行うなど、仲が良いことで知られる。まだ東京では会っていないというが、対面したら「距離を取ってエアーハグ(抱擁するしぐさ)をしたい」と語った。
◆池江 璃花子(いけえ・りかこ)
2000(平成12)年7月4日生まれ、21歳。東京・江戸川区出身。3歳で水泳を始め、16年リオデジャネイロ五輪は100メートルバタフライ5位。18年ジャカルタ・アジア大会は6冠。50、100、200メートル自由形と50、100メートルバタフライの日本記録保持者。19年2月に白血病と診断され、同12月まで入院した。東京・淑徳巣鴨高から同4月に日大へ進学。ルネサンス所属。171センチ。
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