ピクトグラムを背に投球練習を行う上野。13年ぶりに挑む五輪の初戦が迫った(撮影・納冨康)

1964年以来、日本で57年ぶりの夏季五輪開催となる東京五輪で頂点を目指すソフトボール日本代表が、23日の開会式と全競技に先駆けて21日午前9時に始まる開幕戦でオーストラリアと対戦する。20日は会場の福島県営あづま球場で公式練習を行った。2008年北京五輪で金メダルをもたらしたエース、上野由岐子投手(38)=ビックカメラ高崎=は投球練習などで調整。コロナ禍の中で実施される大会で視線を浴びながら、ニッポンの先陣を切る。

12年プラス1年の時を超え、止まっていた上野の時計が動き出す。再スタートの地は福島。全競技の先陣を切ってソフトボール代表が初陣を迎える。ようやく迎えるこの日に、さすがの鉄腕も興奮を隠せなかった。

「やっと、いよいよあしただなって。いい緊張感を持って…なんだろうな。『力まないでいきたいな』という感じです」

会場のあづま球場に入り、自身を落ち着かせようと必死だった。午前10時半から30分だけ公開された練習では、ブルペンでの投球練習などで汗を流し、実際のマウンドの確認も行った。ここまで来たら、思いのすべてを右腕に込めるだけだ。

2008年北京五輪では、準決勝から2日間で3試合で締めて「413球」の熱投で金メダル獲得に貢献。五輪史に残る名場面として刻まれた。

だが、五輪は一度は上野を〝見放した〟。12年ロンドン、16年リオデジャネイロと、ソフトボールは五輪競技から除外。16年に東京での復活が決まると、19年4月には左頰に打球を受けて顎を骨折。4カ月実戦を離れた。そしてコロナ禍で1年延期。13年の間に引退を考えたこともあった。

近年は、五輪開催の可否をめぐって日本国内が揺れに揺れてきた。そんな中、日本のスポーツ界を代表する存在でもある上野は「試合の白黒以上に、目標に向かって進んでいく姿、必死になって取り組んでいる姿を伝えたい」と口にした。

2008年北京五輪決勝に勝ち、肩車される上野。再現を目指す戦いが始まる

葛藤を乗り越え、たどり着いた13年ぶりの大舞台。東日本大震災から10年となり「復興五輪」の象徴として、開幕の地には福島が選ばれた。この日の練習は、気温33度の酷暑の中で実施。百戦錬磨の右腕でも「想像以上に暑い。関東で合宿をしていてもここまで暑くなかった」と驚いたが「アイスベストを着たり、体をどんどん冷やしてパフォーマンスを下げることがないように」と対策は整えた。福島から、上野ももう一度立ち上がる。

初戦先発について、宇津木麗華監督(58)は「一晩考えさせてください」とけむに巻いた。上野で初戦を取れば、競技を超え、日本選手団にとっても最高の号砲となる。だが一方で、もう一人の先発の柱である藤田倭(やまと)が2戦目の相手メキシコに対し、今月9日の練習試合で8失点している事実もあり、上野の2戦目の登板も現実味を帯びる。その2戦目、22日は上野の39歳の誕生日。運命に導かれ、この舞台に帰ってきた。

「感情的には『やっと試合をできる』っていう気持ちの方が大きい。気持ちが高ぶり過ぎないように、しっかりコントロールして入りたい」

13年分、いや、ソフトボール人生のすべてをぶつける。上野の思いが、また日本を変える。(長友孝輔)

★二枚看板・藤田も闘志

上野との二枚看板として期待される藤田が、初の五輪へ闘志をたぎらせた。「この日のために準備してきた。苦しい思いもしてきたが、ぶつけるのは今。やってきたことを執念を持ってぶつけたい」。投打二刀流での活躍も見込まれる右腕。オーストラリアとの初戦へ「低めを打つのがうまいチーム。コントロールをしっかりと。長打を避け、丁寧に投げたい」と力を込めた。

★山田主将「いい結果を」

2008年北京五輪に続き2大会連続で主将を務める山田が、福島での初戦へ気合を入れた。「この地でソフトをやる意味がある。しっかりいい結果を出して喜んでもらいたい」。この日は会場のあづま球場で公式練習を行い、最高気温33度の炎天下で打撃練習などに汗を流した。「無観客ですし、どういう気持ちになるか分からないが、しっかり結果につなげたい」と言い切った。

★ソフトボール・東京五輪の大会方式

日本、米国、オーストラリア、メキシコ、イタリア、カナダの6カ国が出場。総当たりの1次リーグを行い、その上位2チームが決勝(27日、横浜)で対戦。3、4位が3位決定戦に回る。8カ国が参加した2008年の北京五輪のような、敗者復活戦を含んだ変則のトーナメント方式「ページシステム」は採用されない。