まな娘を語る仁一さん。胸にはNASAのロゴが!目線を上げた畑岡は練習の鬼になった。岩間中では陸上部に所属。午後6時まで部活動で走りまくり、帰宅後は9時を過ぎてもゴルフの練習をする毎日を、3年間弱音も吐かずに続けた。コースに行けば、いつまでも練習を終えない娘に父はあきれた。「もう帰ろうと声をかけても、全く聞かない。何度もゴルフ場に置いて帰りました」。笑って当時を振り返った。
名前はNASA(米航空宇宙局)が由来。「前人未到のことを成し遂げてほしい」と父が願いを込めた。五輪は、その実現へ格好の舞台だ。「4年に一度しかない、これ以上ない最高峰の大会」。13年秋に東京開催が決まったとき「奈紗からは、絶対に出て金メダルをとるという強い意志を感じました」。畑岡家の熱量はさらに上がった。
「自分で選ばないと頑張れないですから」。父が最初に望んだ陸上の道ではない。だが娘の強い意志を尊重し、一緒にゴルフで世界一を目指す。
自宅には、賞状やスポーツ新聞などが飾られている〝奈紗記念館〟がある。仁一さんは360度に広がる思い出の品を一つ一つ説明するうち、瞳を潤ませた。「奈紗が今も普通にゴルフができているのは周りの人たちのおかげです。感謝してもしきれない」。アマ時代に使っていたクラブの前に立つと、せきを切ったように涙があふれ出た。
そこには、16年「日本女子オープン」をアマで制したときに着ていたナショナルチームのユニホームを展示。その左隣には裸のマネキンがある。「五輪のユニホームを飾りたいですね」と仁一さん。そしてその胸に、金色のメダルを輝かせる。
◆稲見も決定
東京五輪女子ゴルフの出場権は、6月28日付の世界ランキングをもとにした五輪ランキングで各国最大2人(世界15位以内なら最大4人)が獲得。日本勢は世界27位の稲見萌寧(21)も権利を得た。世界8位の笹生優花(20)は母の母国フィリピン代表となる。競技は60人が出場し、埼玉・霞ヶ関CCで8月4日から7日までの4日間、72ホールストロークプレーの個人戦で実施。2016年リオデジャネイロ五輪の優勝は朴仁妃(韓国)、日本勢は野村敏京が4位、大山志保が42位だった。
畑岡 奈紗(はたおか・なさ)
1999(平成11)年1月13日生まれ、22歳。茨城・笠間市出身。ルネサンス高卒。母の影響で11歳でゴルフを始める。2016年に「世界ジュニア」2連覇。同年「日本女子オープン」で大会最年少優勝(17歳263日)を果たしてプロ転向。17年から米ツアーを主戦場とし、18年「アーカンソー選手権」など通算3勝。日本ツアー通算5勝。家族は両親と妹・利安(りあん)さん。158センチ。