練習を公開した松元克央=千葉県習志野市(撮影・戸加里真司)

東京五輪の競泳は、米国内での放映権を持つテレビ局が自国のゴールデンタイムでの放送を希望したため、決勝の開始が午前10時半に設定された。世界選手権など主要大会の決勝は午後に行われるのが通常で、慣れない時間への対応は必須となる。女子400メートル個人メドレーで表彰台を狙う大橋悠依(25)=イトマン東進=ら、日本代表の午前決勝対策に迫る。(取材構成・角かずみ)

東京五輪の競泳は午前10時半から準決勝や決勝が行われ、予選の開始は午後7時から。通常の五輪や世界選手権、日本選手権などとは逆の日程で、不慣れなタイムスケジュールに対応できなければメダルに手が届かない。

■大橋は朝から脈拍数上げるなど体に負荷

女子200メートル個人メドレー予選を終えた大橋悠依=5日、千葉県国際総合水泳場(桐山弘太撮影)

6日に閉幕したジャパンオープン(千葉)。女子400メートル個人メドレーの大橋は午前の予選で前半から積極的に攻め、4分38秒62のまずまずのタイムをマークした。予選前のウオーミングアップは通常1分で行うメニューを50秒に縮めて強度を上げるなど、新たな試みを取り入れた。

午前決勝を想定し、朝からコンディションを上げるのが狙い。「脈拍数を上げるなど体に負荷をかけた。もう少しタイムが遅いかなと思ったけど、動きはよかった」とうなずいた。

■カツオは午前5時起床しアップ2度に増やす

より五輪本番を意識してレースに臨んだのは、男子200メートル自由形で金メダルを目指す松元克央(かつひろ、24)=セントラルスポーツ=だ。普段より3時間早い午前5時に起床。30分ほど泳いでから再び眠り、午前7時半に朝食。その後は通常のウオーミングアップを行った。普段は1度のアップを2度行うことで、いつもの決勝前のような状態にした。

その結果、午前の予選ながら1分45秒48を記録。銀メダルを獲得した2019年世界選手権のタイムまで0秒26に迫り、「体を動かすことができた」と手応えをつかんだ。

■瀬戸は午後のハード練習を週2日、朝に変更

男子200メートル自由形B決勝を終えた瀬戸大也=4日、千葉県国際総合水泳場(桐山弘太撮影)

男子400メートル個人メドレーなど3種目で表彰台を狙う瀬戸大也(27)=TEAM DAIYA=は5月末から、これまで午後に行っていた最もきつい練習を火曜、金曜の週2日、朝に行うことにした。決勝を想定して午前10時にメインの練習を始める。

時間を変更してもベストに迫る泳ぎができており「午前決勝といっても選手の条件は一緒。朝は苦手じゃないなと、自分の中では思っている」と自信を深めている。

■短時間での疲労回復が重要に

また、夜の予選から朝の準決勝までの回復を課題に挙げる選手もいる。予選後のドーピング検査を経て宿舎に戻るのは、夜中になる場合も想定される。短時間で疲労を抜くことが決勝進出への鍵となる。

大橋は「携帯電話の画面を見る時間が増えると寝つきが悪い。早めに電話を遠ざけるとか、対策が必要」と気を配る。開幕が迫る東京五輪。競泳ニッポンの金メダル量産は、午前決勝対策にある。

★北京で経験・入江が体験談など共有

東京五輪と同じく午前決勝だった2008年北京五輪。東京五輪代表では男子背泳ぎの入江陵介(31)=イトマン東進=が、ただ一人の経験者となる。日本チームのミーティングで体験談を話すなど、当時の状況を共有。対応方法は選手によって異なるが、チーム一丸となって対策に乗り出している。

★強く働く米テレビ局の意向

五輪の競技時間については、国際オリンピック委員会(IOC)に多額の放映権料を支払う米テレビ局の意向が強く働くとされる。東京五輪の競泳は、大会組織委員会や国際水泳連盟が日本国内での注目度などを踏まえて一般的な夕方から夜の決勝を要望したが、米テレビ「NBC」が北米のゴールデンタイムでの放送に合わせて午前を希望。これが受け入れられたとみられる。同じアジアで開かれた2008年北京五輪でも競泳の決勝は午前に実施されたほか、18年の平昌冬季五輪ではフィギュアスケートが午前から行われた。

★今後の予定

競泳日本代表はジャパンオープンを終え、今後は各自で調整して東京五輪開幕前に再集合する。松元、瀬戸、大橋らは準高地の長野・東御(とうみ)市にあるプールを利用しながら追い込む。一方、男子200メートル平泳ぎで金メダルを狙う佐藤翔馬(東京SC)は平地で泳ぎ込む。多くの選手が6月末から7月上旬にレースに出場し、本番に臨む。


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