フランス伝統の自動車耐久レース「ルマン24時間」に一昨年、昨年と出場した実業家兼レーサーの木村武史(50)が今季、悲願のルマン制覇へ大きな一歩を踏み出すことが分かった。昨年度の年間売り上げが120億円の不動産会社「RUF(ルーフ)」の社長は、ルマンをシリーズのハイライトとする世界耐久選手権(WEC)GTEアマクラスに欧州名門チームと組んで参戦。ルマン制覇達成に近づいた。
一度はあきらめた今季の世界選手権参戦へ、道が開いた。WEC全6戦中、ルマンを含む少なくとも4戦への挑戦が決まった。木村の声が弾む。
「スポット参戦だが、事実上のWEC参戦開始だ。ケッセルのおかげで夢が広がった」
2月にアラブ首長国連邦で行われたアジアン・ルマン・シリーズへ、スイスの名門チーム「ケッセル」とジョイントしGTクラスにフェラーリ488GT3で参戦。性能調整で有利に立つポルシェ勢が圧倒的速さを示す中、最終第4戦で最後尾から優勝という奇跡を起こし、ポルシェ勢以外で唯一の勝利を得た。
こうした実績が評価され、ケッセルが持つルマン本戦出場枠での参戦を打診された。その後、WECシリーズへの参戦も持ちかけられた。「開幕戦(5月1日決勝)は締め切りに間に合わなかったが、第2戦から参戦する」と、第5戦・富士までの出場を確認。最終戦は今後改めて判断する。
もともと今季は自チームでのWEC参戦を計画し、競技用のフェラーリ488GTEも購入。だがコロナ禍で、帰国時のスタッフの自主隔離など負担が大きくなるため断念していた。それが、ケッセルのオファーで新たな道が開いた。木村一人なら自主隔離も大きな支障はないと判断した。
ルマンで勝つには、主催者のフランス西部自動車クラブ(ACO)とフランス語で何不自由なく交渉できるなどの体制が必要。日本人が独自に整えるのは難しいが、ケッセルとのジョイントなら任せられる。「『ケッセルと組めばルマンもいける』と自信がある」。悲願のルマン本戦のクラス優勝が現実的になった。
「(年齢を考えると)あと数年が勝負。すべてをかけて最大の功績を残したい」。大きな挑戦に心躍らせている。
★レースでかかる費用は?
自身の不動産会社「RUF(ルーフ)」の、昨年度の年間売り上げが120億円と絶好調の木村。モータースポーツ活動には年間5~8億円を投じているという。今回決まったWEC参戦には、どれくらいかかるのだろうか。
「通常、年間シリーズ8戦でおよそ5億円ほどかかりますが、私はケッセルとのパートナーシップにより、大きな支援を受けて走れているので大変助かっています」
自前の参戦車両を使う分もあり、安いという。その車両、昨年購入したフェラーリ488GTEは「合計で1億3000万円くらいかかった」。
本体が83万9000ユーロ(約1億920万円)でオプションが約1000万円。日本への輸送費など500万円に加え、消費税もバカにならない。
走らせるにも金がかかる。燃料はフランスの燃料会社・トタルだけが扱う特殊なもので1リットル900円。富士スピードウェイなら4・563キロの1周で2・7リットル使うので、2430円の計算だ。
エンジンライフは2万キロで、交換に2000万円かかるから1キロ1000円。ミッションも同様に計算すれば500円。タイヤは30~40分も走れば新品に交換で、これは1セット40万円だ。
「練習走行では全開で走らないとタイムは出ないし、それを繰り返さないと速くなれない」。そのためのコース借り切りの料金はサーキットによって違うが、富士だと平日で1時間70万円ほど。「なんだかんだ、1台で4時間走るだけで1000万円くらいかかる」
木村のプロ顔負けの速さは、そこまで資金をつぎ込み、練習を重ねることで身に着いた。「だから欧州では速いだけで尊敬される。モータースポーツは敷居が高いといわれるが、お金さえ用意できれば何歳から始めても世界最高峰の舞台に立てる。そこが魅力」。言葉に熱がこもった。
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