競泳男子の佐藤翔馬(20)=慶大2年、東京SC=は、今月7日に閉幕したジャパン・オープンの200メートル平泳ぎで、日本記録まで0秒07に迫る2分6秒74で優勝。東京五輪で金メダルを狙える実力があることを示した。自己ベストを更新し続ける競泳界のホープは、慶応幼稚舎から文武両道を貫く。母の純子さんがこのほどサンケイスポーツの取材に応じ、子育てで大切にしてきたことを明かし、息子の飛躍を願った。(取材構成・角かずみ)
▼「自分で選ばせること」を大切に
佐藤家は祖父、父ともに医者だが、翔馬は水泳の道を選んだ。慶応中3年で初めてナショナル選手標準記録を突破。日本水連の強化選手に選出された頃だった。
「水泳を頑張りたい」
幼少期から、さまざまな分野で才能を伸ばしてきた佐藤が、この頃から何度も母の純子さんに思いを打ち明けるようになった。息子の意志が固いことを感じた純子さんは「ここまで頑張っているから、もう反対はできない」。男子平泳ぎで五輪2大会連続2冠の北島康介氏(38)の後継者といわれる天才スイマーの原点だ。
慶大商学部2年になった現在も、水泳と勉強を両立する。競技に軸足を置かず、文武両道を貫く佐藤は異彩を放つ。思考の根幹に、純子さんの教えがある。
幼児教育の講師経験がある純子さんが、大切にしてきたのは「自分で選ばせること」。そのために「(選択肢に)AとBがあって、親が選ばせたい方があるなら、選んでもらいたい方をより魅力的に映るようにもっていく」ことを心掛けた。
▼志願した慶応幼稚舎受験
生後5カ月から通ったベビースイミングは母の選択だったが、野球、サッカー、体操、陸上、絵画、ピアノなどの習い事は佐藤少年が「やりたい」と言い出した。小学校受験も同じ。通っていた幼稚園から、私立小学校の慶応幼稚舎を受験する子が多かった影響で、佐藤が「僕も行きたい」と志願した。
週末に試合が重なることも増え、習い事は一つ、また一つと絞る必要に迫られた。慶応幼稚舎3年のとき、佐藤の選択で、習い事は北島氏がかつて通った東京SCでの水泳一本に絞った。
全国大会に初出場したのが中学1年。その頃から練習が毎日に増え、勉強との両立が困難になりかけたが「自分がやりたいと言ったことなんだから、やりなさい」と純子さんは背中を押した。週2回、家庭教師をつけてサポートした。
学校には優秀な成績を出すスポーツ選手を進学で特別扱いするシステムはなかった。中学3年時、周囲から「水泳を優先したいなら他の強豪校でやれば」との声もあった。それでも、佐藤の「慶応に通いながら水泳をやりたい」との思いは揺るがなかった。
学校から東京SCに移動する地下鉄の車内での勉強は日課。昨秋、ブダペストで開催された国際リーグに参戦中も、現地時間深夜1時からオンラインで授業を受講した。帰国する機内では、オンラインで試験も受けた。
▼日本記録に肉薄!!金メダル候補に
競技では1月、北島康介杯の200メートル平泳ぎを2分6秒78で制した。2月のジャパン・オープンの同種目では、日本記録保持者の渡辺一平(23)=トヨタ自動車=との争いを制し、2分6秒74で優勝。2016年リオデジャネイロ五輪の金メダル相当の好タイムだ。日本競泳のお家芸といわれる平泳ぎで、東京五輪の金メダル候補に名乗りを上げた。
純子さんは「自分で選んだ道だから頑張れているのだと思う。目標に向かって頑張っている。頑張っている限りは応援したい」。伸び盛りの息子を温かく見守る。
佐藤は「4月の代表選考会も7月の東京五輪も良いタイムで優勝したい」と決意する。「北島2世」と呼ばれる新星が文武両道を貫き、金メダルに挑む。
▼佐藤 翔馬(さとう・しょうま)という男
★生まれ 2001(平成13)年2月8日生まれ、20歳。東京・港区出身。
★水泳歴 0歳からオリンピアンの長崎宏子さんが創設したベビーアクアティクスと地元のベビースイミングの2カ所に通った。その後、慶応スイミングを経て慶応幼稚舎3年から、五輪2大会連続2冠の北島康介氏が在籍した東京SCに所属。
★自然好き 幼稚園から日本野外研究所に入会し、スキーやキャンプ合宿、川遊びなどに参加。兄弟、姉妹はいないが、幼少期から多くの人と触れあってきた。
★宝物 北島氏、12年ロンドン五輪男子200メートル平泳ぎ銅メダルの立石諒氏、北島氏のライバルでもあり、12年に急死したノルウェーのダーレオーエンの直筆サイン入りTシャツ。
★名前の由来 誕生後、ベッドのシーツに朝日が当たり、光の筋が羽に見えたことから「ペガサス=翔馬」と名付けられた。
★習い事 水泳以外にも陸上やサッカーなど多くの習い事で体を動かしてきた。水泳一本に絞った小学3年まで続けた野球では「オール麻布」に所属。1学年上にはプロ野球・日本ハムの清宮幸太郎内野手がいた。
★サイズ 177センチ、74キロ。
◆世界の情勢
男子200メートル平泳ぎは、2019年世界選手権で2分6秒12の世界記録をマークして優勝したアントン・チュプコフ(ロシア)と、2分6秒67の自己記録を持ち、同大会銀メダルのマシュー・ウィルソン(豪州)が金メダルの筆頭候補。ウィルソンと同じ2分6秒67が自己ベストで同大会銅メダルの渡辺や、成長株の佐藤が追う。
◆佐藤の今後
国内で合宿をしながら、今月20、21日の東京都オープン、来月4、5日の東京都シニアの2試合に出場予定。その後、4月の日本選手権で、東京五輪代表の出場権を狙う。