毎打席、結果がネット上に速報される打者が現れた。それほどまでに1打席1打席を、世間が注目するなんて、まさにプロフェッショナル…と喜びたいんだが、注目のベクトルが違っている。
開幕から一本もヒットを打っていないから。あのランディ・バースのワースト記録を超えてしまったから。今、トラ番が必死で数える、何とも寂しい記録。楽しくない仕事だ。
そして19打席目。ついに…。ボーアの不名誉な記録がついにストップした。
「記念球がセンターから阪神ベンチに返されてました。まあ、良かったです」
ベテラン三木建次が苦笑いだ。ホームランの記念球ならともかく、ヒットで。レベルの低い話ではある。
「きょうも、同じように左中間方向へ打球をはじき返していましたが…。練習では、相変わらずいい打球を打っていると思うんです」
試合前、キャップ大石豊佳が重苦しいトーンで伝えてきていた。きょうからは、ちょっとは明るくボーアの話題に触れられるかな。
今からちょうど23年前の1997年6月24日、「これぞプロフェッショナル」という記録が塗り替えられた。記録保持者だったのは藤田平。すご~く弱かった時代の阪神監督も経験した、あのタイラさん。更新者はイチロー。言わずと知れた、史上最高の打者。
で、その記録というのが連続打席無三振。藤田平の持つ「208」を、イチローは開幕直後から2カ月近く三振をせずに、ついに超えていったのだ。
必ずバットに当てることがいかに大変か。たとえば、ことし阪神で、2打席以上で三振していない野手は、もう一人もいない。まだ5試合しか消化していない時点でこの惨状。それだけでも、タイラさんとイチローの連続打席無三振記録の難易度がわかる。
阪神の監督時代に、タイラさんに聞いた話。
「そんな記録、気にもしたことなかった。自分が新記録になるときに、一部のメディアが取り上げた。あっそう、というぐらい。自分は早いカウントで打つから三振が少なかっただけ」
タイガース史に残る打撃センスの持ち主は、意外なほどに無関心だった。対するイチローもクールな対応だった記憶がある。
でも、周囲は盛り上がっていた。やっぱりその記録自体に値打ちを感じたから。当時の担当記者たちは一生懸命、計算していたもんだ。それは、楽しい作業だった。
甲子園で行われたウエスタン・リーグ。ドライチ・西純矢が救援で3回を投げ、プロ初星をマークした。2軍戦とはいえ、ルーキーがチームに初勝利をもたらしたわけで「そんなピッチャー、今までいたっけ?」と記憶を辿る。これが楽しい。
目撃者はトラ番・織原祥平。
「ちょうど2年前、創志学園時代に西クンが甲子園で初勝利をマークしたときも、僕は高校野球担当として、甲子園で取材したんです。アルプススタンドから見てました。あの時は満員で、メチャクチャ暑かったんです。でも、今回は無観客で、風が涼しく感じられて。ただ、西クンは投球内容もオトナになった感じでした」
楽しそうに語ってくれた。楽しい記録を、レベルの高い野球を取材したい。トラ番たちの切なる希望です。
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