2003年に料理本「志村けんのズボラ健康術 これでカラダだいじょうぶだぁ~!」を出したとき、一度だけインタビューをしたことがある。とてもシャイな人見知りをするタイプで、目と目を見合わせて話をした記憶がない。
物静かで、その意外性にもまず驚いたが、もっとびっくりしたのは料理に対するきめの細かさだった。生涯独身を通したのは、自分の胃袋を自分でつかんでいたことが大きかったのではないか。
記者は、納豆を食べるときにキムチと長ネギを細かく刻み、卵の黄身を落として食べることが多いのだが、これは志村さん直伝だ。この本のインタビューがきっかけで、いつのまにか影響を受けていた。当時の記事を読み返し、「そうか、志村さんだったんだ!」とふいに自らの食習慣のルーツに思い至った。
ただし、志村さんの納豆キムチは心遣いがハンパではない。「納豆とかキムチってホントは出してから30分とか1時間くらい置いて食べたほうがおいしいらしいね」ということで、志村さんは納豆をかき混ぜた後に朝風呂に入り、出てきてから食べる。たかが納豆にここまで神経を使う。それが全然、苦にならないのだ。
「そこまでやってくれる人がいれば一番いいんだろうけど、自分でやったほうが早いもん」
料理の中に、志村さんの笑いの緻密さと人生観が詰まっていた。
志村さんが数々残したギャグの余韻に浸りながら…合掌。 (元サンケイスポーツ文化報道部部長)