ソフトバンクは東邦高・石川昂弥内野手に1位で入札。3球団競合による抽選の末に中日が交渉権を獲得した。右が工藤監督 17日に行われたドラフト会議の直後、ソフトバンク・王貞治球団会長は第一声で珍しい感想を口にした。
「みなさんをだましてでも、と思ったんだけどね…」
結果に対する評価、獲得した選手の印象よりも先に飛び出した言葉がプロジェクトの本気度を表現した。最初に1位で入札したのは石川昂弥内野手(東邦高)。直前まで、佐々木朗希投手(大船渡高)の指名をにおわせていた。
「どれだけ散らばるかだね。(競合は)少ないにこしたことはない。投手は絶対に欲しいよね」
公表は控えたが、王会長は前日のスカウト会議の前後にも佐々木を前提としたようなコメントを残した。この数カ月、編成担当の球団関係者やスカウトも一貫して、最速163キロ右腕に対する評価の高さを強調。実際に「超」がつく大物と認めていたことは事実だ。ただ、結果はサプライズ。永井智浩編成育成本部長も「みなさんには申し訳なかったですけどね」と苦笑い。1位・石川を決めた時期を問われ、舞台裏を明かした。
「実はスカウトの中では、すごく早くから決めていて。夏前には王会長にそういう話をさせてもらいました。こういうドラフトになることは分かっていたので」
佐々木と奥川恭伸投手(星稜高)、森下暢仁投手(明大)に指名が集中することを早々に予測した上で、一本釣りを狙った。戦略として、意中の選手を公言することで競合を避けたい他球団を退ける方法もある。昨年は前日に小園海斗内野手(報徳学園高→広島)を公言。今回は、さらに綿密な計画を立てた。
「あれだけいい投手たちがいる中、そこまで石川を推せるスカウトが他球団にいるのか。逆にうちがいうことで、勇気を与えてしまうこともあるかもしれないと思った」
他球団の心理まで考えた策略だった。「ことしは野手のレベルの高い選手がほしかった」。3球団の競合による抽選で石川を外した後は、佐藤直樹外野手(JR西日本)の交渉権を獲得した。若手野手の育成は課題。危機感はもちろん、数十人が関わる駆け引きを3カ月以上にわたって演じた執念には恐れ入る。(安藤理)
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