■8月16日 お盆休みに友人と飲んだとき、偉大な競走馬&種牡馬のディープインパクト、キングカメハメハが相次いで死んだ話の際に「冷凍精子を使えば死後も子供を生産できるはず」と言われた。サラブレッドは人工授精が禁止されていると教えると「牛や豚の繁殖では一般的なのに」と驚いていた。
人工授精の禁止は、サラブレッドの登録に関する世界共通のルール作りのために設けられた国際血統書委員会で合意されている。同委員会は「伝統的に自然の妊娠によって生産している」「遺伝子的悪影響の可能性もある」など6つの理由を挙げる。
中でも「血統の多様性が失われることで、競馬の魅力に悪影響を及ぼす」は、競馬のスポーツ性を守るために必要な禁止理由といえる。「出走馬が人工授精で生まれたディープとキンカメの子供ばかりだったら楽しめる?」。友人は「楽しめない」と納得していた。
人気種牡馬以外が淘汰(とうた)されると、近親交配による身体的な障害が出る可能性が高くなるといった弊害も出てくる。日本の競馬界は、ただでさえディープの父であるサンデーサイレンスの血を持つ馬が多い。人工授精が認められれば血統の一極集中に拍車が掛かりかねないし、「遺伝子的悪影響」が顕著になれば競馬の存続そのものが危機に立たされるかもしれない。
サラブレッドの語源は「徹底的な(THOROUGH)品種(BRED)」。人為的に完全管理された血統を意味する。究極の人的管理といえる人工授精は、18世紀初頭に始まったサラブレッドの品種改良の歴史を逆に閉ざすことになる。2頭の死は残念だが、さらに強く速い馬をつくりだすために避けて通れない道なのだろう。 (鈴木学)
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