■6月4日 「前畑頑張れ!」と150メートル過ぎからアナウンサーが14回連呼したのは1936年ベルリン五輪の前畑秀子の金メダルだった。14歳の岩崎恭子が「いままで生きてきた中で…」の名言を残したのは92年バルセロナ五輪。競泳女子200メートル平泳ぎは日本人の心に深く刻まれた種目で、金藤理絵がリオ五輪で3人目の頂点に立ち伝統を守った。
しかし、7月の世界選手権追加選考会となったジャパンオープンでは、天才スイマーといわれた渡部香生子(22)が優勝したものの派遣標準記録にわずか0秒32届かなかった。2015年の世界選手権優勝者だった渡部も沈んで、この種目は個人内定者ゼロという異常事態だ。
日本水連の派遣標準記録はハイレベルで国際水連の標準記録より厳しく、国際大会の準決勝進出を目安に設定されている。それはわかるにしても、渡部は昨日今日出てきたわけではなく十分実績のある選手だけに、日本のお家芸を重視するならもう少し柔軟な考えがあってもよかったのではないか。
ミュンヘン五輪平泳ぎ金メダリストの田口信教氏(いわき明星大副学長)は言う。「平泳ぎは手のかき方、足首のしなりなど他の種目にない複雑な要素がある。それだけベテランが長持ちする。渡部は東京でメダルを狙うにはいい年齢だが、世界選手権に出れば得るものも大きかったろう。派遣標準にこだわりすぎて選考に心が通っていない」。
少数精鋭には派遣費用抑制という側面もあるという。今回の世界選手権開催地はお隣韓国。渡部だけでなく特例で連れていきたいという選手が4、5人いてもさほど懐は痛まないだろう。自己規制もいいが、自分の首を締めては元も子もない。 (今村忠)
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