プレゼントされたサッチー人形を手にゴキゲンの野村克也氏(右)と作者で粘土クリエイターの、おちゃっぴ あれから1年。プロ野球南海(現ソフトバンク)、ヤクルト、阪神、楽天で監督を務めた野村克也氏(83)=サンケイスポーツ専属評論家=の夫人で、サッチーの愛称で親しまれ、昨年12月8日に旅立ったタレントの野村沙知代さん(享年85)の一周忌が過ぎた。
「(息子の)克則夫妻が中心になって、食事会をしてくれたよ。今は1人だから、家にいるときはテレビが話し相手だよ。でも克則夫妻が隣に住んでくれているから、助かるよ。サッチー人形もいてくれるから、気が紛れるね」と野村氏。
サッチー人形とは、今年の3月に野村氏と食事をした際、粘土クリエイターとして活躍する私の高校時代の同級生、おちゃっぴ氏(年齢非公表)に依頼してプレゼントしたものだ。
愛妻の沙知代さんに先立たれ、沈んでいる野村氏を元気づけようとあまたの策を考えたとき、テレビ出演や粘土教室で全国を飛び回り、現在も「90周年記念ミッキーマウス蒸気船ウィリー制作(ディズニーストア)」でも多忙の、同級生の売れっ子先生のパワーを借りることを思いついた。そして快諾を得た。
注目すべきは、その腕前。さすがはプロのでき映えだ。リクエスト以上の一品、いや逸品に仕上げてくれ、野村氏との食事の場にも同席していただいた。
「監督(私はこう呼んでいる)、きょうはすてきなプレゼントがあるんです」と切り出すと「なんや? また、きんつばか?」と甘味好きな監督らしき返答をボソリ。そこで、おちゃっぴ氏が人形を差し出すと、甘いもの以上に甘い贈り物に、ほおが、ぱっと赤く染まった。
「おーっ、これはまたよう似てるなぁ。今にもしゃべり出しそうや。フフフ。かわいらしいなぁ。このサッチーなら、叱られなくていいなぁ」と、小さな沙知代さんを手のひらで包み込んだ。
一周忌の翌日に連絡した際「いつもリビングでおれが座っている場所の前に飾ってあるわ。今も、目の前にいるよ。ありがとうね。どうも、どうも」と、やっぱり沙知代さんと一緒。おしどり夫婦ぶりは、今でも健在だった。
おちゃっぴ氏にも近況を報告すると「そんなに大切にしていただいて、うれしいです」と、しみじみ。実は私も昨年母を亡くし、今年の11月末に父を亡くしたばかり。大切な人を失った深い悲しみは、身に染みてよくわかる。
「ご両親も今ごろ、サッチーと会ってるやろ。向こうで、にぎやかにやってるよ。きっと。だから身体に気をつけて、しっかりと生きなさいよ」
父とも仕事で交流があった監督からの有り難いお言葉。励ましているつもりが、励まされていたのは私のほうだった。
肉親を失い、師走の風がより冷たく感じる日々だが、この度、本当にたくさんのかたに支えていただいたことに大変感謝している。人は1人で生きてはいけない。寒さの中にも根を張る人のあたたかみで暖を取りながら、そして寒さに凍える人がいたならば手を取り合いながら、これからもしっかりと歩を進めていきたい。 (山下千穂)