普段できていたことが突然、できなくなる…。心理的原因による運動動作の障害を「イップス」と呼びます。もともとはゴルフのパッティングが急に乱れることを指した言葉だそうですが、野球界でも広く使われています。
私自身、バッテリー間の返球でイップスになったことがありました。ヤクルト時代のある試合中でした。走者を置いた場面でマウンドの石川雅規投手へ返球。これがワンバウンドに…。瞬間的に「危ない」と感じましたが、石川は捕球し、事なきを得ました。
ところが、次に返球する時から恐怖心が襲ってきたのです。怖さと焦りで、どうやって投げたらいいのかが分からない…。とにかく返球が怖くて仕方がありませんでした。
試合後、室内練習場で返球の練習を繰り返しました。動作を確認し、翌日の練習中も問題はありません。しかし、いざ試合に入ると、また恐怖心が頭をもたげます。1回の失敗が、トラウマになってしまったわけです。
試合中にワンバウンドの返球をしたのは、現役生活でもその1回だけ。プロ野球でワンバウンドの返球をする捕手なんていません。それまでは何も考えずに投げれば、投手のグラブ付近に届くという感覚でしかありませんでした。呼吸をするように投げていたのが突然、できなくなりました。
イップスになった当時、自分でも不思議だったのは、二塁や三塁への送球は大丈夫ということでした。8割から10割の力で投げるのは全く問題ありません。
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