――師匠、お待ちかねの夏ダコが始まりましたね。父に聞いたんですが、今シーズンは相模湾も東京湾もいいスタートを切ったようですね。
「さすが父君、早耳だな。その通りだ。東京湾でも相模湾でもすでに2桁釣果が記録されているからな。どちらもまだ乗合船を出している船宿さんが少ないので好漁年と断定するのは早計だとは思うけど、少なくとも悪い年ではないと思うな」
――師匠が通っている浦安の船宿さんは、まだ乗合船を出していないようですが…。
「東京湾の船宿は、富津港を除いて6月1日から解禁なんだよ。毎日のように富津の船の釣果をチェックしながら、楽しみにしているところだ」
――えっ、東京湾の夏ダコは解禁があるんですか。知らなかったです。師匠は相模湾のマダコは釣りに行きませんものね。
「そんなことはない。以前は江の島沖のマダコ釣りにも出掛けたこともあるし、機会があれば相模湾にも行きますよ」
――へ〜、そうなんだ。でも、父が『師匠の東京湾のマダコに対する思い入れは半端じゃないからな』と言っていましたよ。なので、この間、相模湾の佐島にマダコ釣りに行く時にも誘わなかったって。
「えっ、父君はもう夏ダコに行ってきたのか」
――はい。握り拳くらいのかわいいマダコを5杯ほど釣ってきましたよ。柔らかくてすごくおいしかったです。
「誘って下されば俺も行ったのに…」
――父が、浦安の船宿さんが乗合船を出し始めたら行きましょう、と伝えてほしいと言っていました。
「ぜひ!と父君に伝えておいてくれ」
――分かりました。ところで夏ダコって『型より数』の釣りですよね。
「ああ、確かに冬に比べれば小型が多いし、ワキのいい年ほど数釣りになる傾向はあるが、油断しているとビックリするような大型も乗ってくるからな」
――いつか師匠から聞きましたが、マダコって基本的に年魚っておっしゃっていましたよね。
「俺の知り合いにイカ、タコの世界的権威の学者さんがいるんだが、その先生に聞いた話では、大部分は一年で生涯を終えるそうだ。ただし、2、3年、時には4年近く生きる個体があることも確かで4キロ、5キロといった大ダコはそうした個体なんだろうな」
――ふ〜ん、そうなんですか。6月になったら行きましょうね。
「ああ、父君によろしく言っておいてくれ」
――はい。分かりました。