今月17日、東京・江東区の日本科学未来館で、日本スポーツアナリスト協会によるフォーラム「スポーツアナリティクスジャパン2016」が開催された。3回目となった今回は過去最多の約500人が詰めかけ、熱心に講演に耳を傾けていたことからも分かるように、近年のスポーツ界ではアナリストの仕事、役割にますます注目が集まっている。
今回のフォーラムではテクノロジーやアナリティクス(分析)の進歩が今後のスポーツ界をどう変えるのかに主眼が置かれていたが、その流れは野球界も無縁ではないようだ。例えば人工知能(AI)。その活用によって野球が大きく変わる可能性がある。
AIというと、過去のデータを分析したうえで最適な答えを出すものというイメージが強く、最近では将棋や囲碁の棋士との対戦が話題になったが、そういった「定量的」な観点のほかに、戦術の組み立て方やスカウトの選手の能力の見極め方などといった「定性的」(どのような質を持っているか)という観点での研究が進んでいるという。
株式会社LIGHTzの乙部信吾代表取締役は、そうした定性的の観点からスペシャリストの知見を人工知能化するソフトの開発に携わる。「例えばインタビューなどによってある監督の考え方を明らかにできれば、AIに学習させることによって高い確度で戦術を再現させることが可能になります。つまり、レジェンドの英知を次世代に幅広く残せることになる」と説明する。
仮に同点の九回表、一死一塁で2番打者が打席に入る場面があったとしよう。送りバントか、それとも強攻策か、あるいは代打を送るのか。さまざまなケースが考えられる中で、歴代の名将ならどのように判断するかをAIで導き出すこともできるようになる。「A監督なら送りバント、B監督なら代打か。おっと、C監督も送りバントなら、やはりここはバントをさせるか」-。そうなれば、たとえば高校の部活動で野球経験がない監督でも(ルールが許せば)高度な采配が可能になる。