一流アスリートを育てた親や指導者が育成の極意を明かす、「デキる選手の育て方2016」。トップを切るのは、フィギュアスケーターの紀平梨花(14)=関大KFSC=です。女子では史上7人目のトリプルアクセルを決めた新星の父・勝己さん(49)と母・実香さん(45)を直撃。天才少女に育てた秘密に迫ります。 (取材・構成=須藤佳裕)
(1)人に優しく、精神面厳しく教育
紀平とスケートとの出会いは3歳。母・実香さんと姉・萌絵さんと3人で冬場の遊びとして神戸のリンクに行ったときだ。紀平は立っては転けて膝を打つことを繰り返すスタート。上手に滑る4つ上の姉に対し負けず嫌いな性格が出て、家族の「帰ろうよ…」の声に耳を貸さず、閉場間際になっても滑れるまではリンクを離れなかった。
回数を重ねるごとに上達し、5歳の冬休みに短期教室に通い始めたことからスケーター人生は動き出す。3月でリンクが閉まれば通年でやっている教室に移った。
「選手にしようという思いは全くなかった。楽しいからやるという感じ。おけいこ事のひとつという感じでした」と実香さん。着実に級を重ね、小学1年の1月に当時のコーチから個人レッスンに誘われた。それ以降、土日は最低6時間、平日も2時間の練習に費やした。
【(1)人によかれということをやっていれば、運もついてくる】競技経験のない両親はリンク外でのサポートに全力を注いだ。精神面は厳しく教育した。練習態度の悪さが目に映れば、リンクサイドからも声を飛ばした。
「やる気がないならやらない方がいいし、リンクを他の子に譲ってあげた方がいい。人によかれということをやっていれば運もついてくる。生きる力を身につけさせたい」
成長著しい娘のために父・勝己さんも動いた。「どこのチームの子が表彰されているんだろう」。大会ごとに表彰台をチェックし、情報を集めた。その結果、現在指導を仰ぐ濱田美栄コーチ(57)が在籍する関大KFSCにたどりついた。大きく飛躍した要因には両親のサポート抜きには語れない。
(2)ジャンプ増へ足の負担軽減
【(2)徹底した栄養管理】実香さんは短大時代に栄養学を学んだ経験があり、身につけた知識を生かして丈夫で健康なからだに仕上げた。
「太らせないように栄養バランスを考えたり、骨を強くするために乳製品をしっかり摂るようにアドバイスしています」
より多くポイントを獲得するためにジャンプの数を増やせば、足への負担も大きい。丈夫な骨作りのためにチーズを多く食べさせているという。トリプルアクセル成功は偶然の賜物ではないのだ。
勝己さんは「フィギュアスケートはお金も時間も制約を受ける。だからこそ、やるからには、身になるものであってほしい。そうでなければやっている意味がない」と話す。
(3)疲れ残さない 練習場まで送迎
【(3)車での送迎は練習に集中するため】練習からの帰宅後、疲れて寝てしまったときは、親が服を片付けることもある。決して甘やかしているわけではない。
「本人が競技に力を出せる、極めていけるようにしてあげる。満員電車に揺られて疲れて、実力が発揮できなかったら意味がない」と実香さん。住まいがある西宮市から練習場のある高槻市までの車での送迎は徹底して行い、1年間で約3万4000キロも走った。車内でゆっくりしてもらうことで、練習に集中できる。送迎のためにフルタイムの事務職員を辞めて、時間の都合がつくデパートの販売員に転じた。
美香さんは「オリンピックに出てほしい。4回転を跳べるようになってほしい」と期待を寄せた。優しさと厳しさを併せ持って子供を全力でサポートする。この姿勢が成長につながっている。
★対抗リレーは毎年主役に!
幼い頃から運動神経は抜群だった。小学校の運動会のクラス対抗リレーでは毎年主役。第1走者とアンカーを同時に務めたこともある。運動会当日に37度近い熱が出たが、無理を押して学校に到着すると「紀平が来てしまった…」とほかのクラスの男子に言わしめるほど足も速かった。
現在の活躍の礎となったのは通っていた幼稚園が採用していた「ヨコミネ式教育法」。年長のときには運動会の1・6キロ走で2位に半周(400メートル)以上の差をつけて優勝するなど、鍛えられる環境下でもセンスは秀でていた。
★ヨコミネ式教育法とは
女子プロゴルファーの横峯さくら(30)=エプソン=の叔父・良文さん(65)が提唱する教育法で、全国各地の幼稚園、保育園に取り入れられている。子どもたちが逆立ちやブリッジで歩行をしたり、ひらがな読みや計算ができるようになったりと効果はさまざま。将来的に自立するために「学ぶ力」、「体の力」、「心の力」を重視し、意欲、やる気、好奇心を育てる。
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