歌手で俳優、杉良太郎(70)が5日、東日本大震災で甚大な被害を受けた福島・大熊町と双葉町にまたがる福島第1原発を芸能人で初めて訪問した。同原発では現在、30~40年後をめどに廃炉作業を進めており、杉は水素爆発を起こした4号機内部などを視察。慣れない防護服姿に「移動するだけで大変」と汗だくになり、「皆さまの決死の覚悟のおかげで、今の日本がある」と作業員らを激励した。
2011年の東日本大震災から4年。復興支援に尽力してきた杉が、身をもって廃炉作業の過酷さを実感した。
杉は福島第1原発事故の対応拠点で、福島・楢葉町と広野町にまたがるJヴィレッジから同原発に向けて出発。約7000人もの作業員が働く同原発に到着すると、「実際に経験しないと本質はみえてこないんだよ」と悲壮な決意で芸能人初の視察を断行した。
体内被曝(ひばく)の数値などを調べる厳重な検問を3カ所通過すると、布製の防護服などを装着。放射線量を測定する線量計を首からさげ、水素爆発を起こした4号機に入った。
4号機では昨年12月、約1年かけて全燃料棒1535体の取り出しが完了。杉は薄暗い建屋内で燃料棒の冷却プールや取り出しの際に稼働した大型クレーンなどを無言で見つめた。その後も呼吸がしづらいマスク姿で、高さ約15メートルの大津波で破損した巨大タンクや倒壊したままの送電線を目の当たりにするなど、約2時間、精力的に動いた。
同原発の緊急対策室も訪れ「決死の覚悟で作業なさっているみなさんのおかげで、日本と世界の安全が保たれている」と職員らに感謝。現場で働く作業員にも「こんな年寄りだけど、一緒に仕事をしてみたい」などと語りかけた。
日ごろから慈善活動を積極的に行う杉は震災直後、炊き出しなどで被災地を支援し、2012年には妻で歌手、伍代夏子(53)とともにJヴィレッジを慰問。今回、国民の目線で「実際に原発をみたい」と福島県の内堀雅雄知事(50)に視察を申し入れ、3年越しで実現した。
杉は視察後、初の防護服姿に「途中でマスクも取れず、水も飲めないので動くだけで大変」と苦労を実感。いまだ倒れたままの鉄塔や放射能の汚染水などを貯蔵する約1000基の巨大タンクにも衝撃を受けた。労働環境の改善も訴えた杉は「今後は東電と国民の信頼関係回復のために、できることを考えたい」と力を込めた。
★被曝量、歯科エックス線検査レベル
東電職員によると、この日、2時間の視察での被曝(ひばく)量はトータルで10マイクロシーベルト。歯科でのエックス線検査の撮影に相当する程度だという。1~3号機内の燃料棒の取り出しには着手していないが、合計1573体の中には溶解したものが多く、建屋内は放射線量が高いため取り出しは難航すると予想される。取り出しは3→1→2号機の順番で行われ、開始は2015年度(具体的には未定)の予定だ。
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