2008年05月03日 更新
【柔道】井上康生、引退を表明「我が柔道人生に悔いはなし」

晴れ晴れとした表情ものぞいた井上康生。あこがれの山下泰裕・東海大教授と引退会見に臨んだ(撮影・北野浩之)
シドニー五輪柔道男子100キロ級金メダリスト、井上康生(29)=綜合警備保障=が2日、現役引退を表明した。北京五輪100キロ超級代表の最終選考会となった4月29日の全日本選手権(日本武道館)準々決勝で敗退。第一線を退くことを決意した。今後は語学留学などを経て、指導者としての帝王学を学ぶ。また、夫人でタレントの東原亜希(25)は全日本後、顔に軽い障害が起きていることをブログで告白した。
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すがすがしい表情が心境を物語っていた。東京都港区の綜合警備保障本社で行われた会見には、約150人の報道陣が集まったが、スーツ姿の康生は緊張も見せず、穏やかな表情で25年間の柔道人生を振り返った。
「本日をもって第一線から退く決意をいたしました。5歳から始めて、柔道にすべての情熱を注いできました。わが柔道人生に悔いはなし、という気持ちです」
96年に17歳で全日本選手権に初出場して以来、日本柔道界の期待を一身に背負ってきた。99年6月に母・かず子さん(享年51)を亡くしたが、悲しみを乗り越え、同年10月の世界選手権で初出場V。シドニーでは100キロ級で金メダルを獲得、01年から全日本選手権で3連覇を達成するなど、無敵の強さを誇った。
しかし、04年アテネ五輪4回戦敗退で人生が急転した。100キロ超級に転向したが、05年1月の嘉納杯で右大胸筋断裂の大けが。同年6月には兄・将明さん(享年32)が急逝。07年9月の世界選手権では5位とかつての強さは潜め、北京切符には手が届かなかった。
1月に入籍した亜希さんとの挙式と披露宴を今秋に都内と宮崎県内で開いた後、早ければ来年1月にも語学学習と海外修行を兼ねた英国留学へ出発。約2年間の予定で、国際人としての基礎を学ぶ。尊敬するロサンゼルス五輪無差別級金メダリストで、東海大の先輩、山下泰裕氏(50)も引退後に英国留学。その恩師と同様、康生にも将来の柔道界を担う指導者としての期待がかかる。
第2の人生に踏み出す前には、最後の舞台も残されている。綜合警備保障の団体戦メンバー5人の一員として6月8日の全日本実業団体対抗大会(横浜文化体育館)に出場。15歳から住む第2の故郷・神奈川と所属先に恩返しをするつもりだ。
「今後は3つのことをやりたい。皆さまに愛される井上康生であり続けたい。妻と家族を幸せにしたい。柔道に恩返しし社会に貢献できる人間になりたい」。3大会連続の五輪出場は果たせなかったが、これまでの成績が色あせることはない。栄光と挫折を味わった現役生活を糧に、康生が新たな人生に踏み出していく。
(江坂勇始)
★康生トーク
−−引退決意の理由は
「今年が最後の年と決めていた。全日本選手権で敗れて大きな目標だった五輪がなくなり、決意した。悔いはない」
−−25年間の柔道人生を振り返って
「一本を取る柔道を貫き通した。長いようで短かったが、ファンの声援に支えられ、みんなに愛された柔道人生だった」
−−心に残っている試合は
「全日本選手権で篠原選手に勝って初優勝した試合、1999年の世界選手権、シドニー五輪の3大会」
−−亡くなった母親と兄には何と報告したか
「ありがとうと言った。ご苦労さまと聞こえたような気がした」
−−どういう指導者になりたいか
「強いだけでなく、みんなから愛される柔道家を育てたい。情熱をささげ続け、柔道に恩返しをしていきたい」
−−今やりたいことは
「まず家族とゆっくりしたい。第2の柔道人生に備え、勉強し努力をしたい」
★山下氏「一時代終わった」
会見に同席した東海大柔道部部長を務める山下氏は「ひとつの時代が終わったという感じ。柔道家の前に人間として素晴らしい。将来は厳しい日本の柔道を背負う指導者になってほしい」とまな弟子の活躍に期待を込めた。一撃必殺の内またに最後までこだわった姿勢にも共感。「あれだけ美しい技を出せる選手はいない」と、康生の偉業をたたえた。
■井上 康生(いのうえ・こうせい)
1978(昭和53)年5月15日、宮崎県都城市生まれ、29歳。東海大相模高−東海大−綜合警備保障。5歳のときに、父・明氏の影響で柔道を始める。00年シドニー五輪100キロ級金メダル。世界選手権は99、01、03年に同級3連覇。全日本選手権は01、02、03年に史上4人目となる3連覇を達成したが、アテネ五輪ではメダルなし。得意技は大外刈り、内また。1メートル83。
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◆康生の出身地・宮崎県の東国原英夫知事
「井上選手は本県第1号の県民栄誉賞受賞者として、県民に敬愛され、大きな感動と夢を与えてくれました。シドニー五輪で金メダルを獲得し、お母さんの遺影とともに表彰台に立たれた姿には深い感銘を受けました。常に一本を取りにいく攻めの柔道を貫かれた姿勢に心から敬意を表します。指導者としてのご活躍を期待しています」