2008年03月07日 更新

【大相撲】協会に“クーデター”発生!北の湖理事長が完全孤立

北の湖理事長が他全員の理事から猛反発を受け、理事会で押し切られた

北の湖理事長が他全員の理事から猛反発を受け、理事会で押し切られた

処分内容には不本意なはずの北の湖理事長(中央)が会見。右は九重広報部長、左は時津風親方(撮影・桐山弘太)

処分内容には不本意なはずの北の湖理事長(中央)が会見。右は九重広報部長、左は時津風親方(撮影・桐山弘太)

 日本相撲協会に、激震が走った。協会は6日、大阪府立体育会館で臨時理事会を開き、時津風部屋の力士急死事件で先月29日に傷害致死罪で起訴された兄弟子3力士について、裁判で有罪が確定すれば解雇とし、それまでは出場停止処分にすることを決めた。席上、北の湖理事長(54)=元横綱=が人命が失われた重大さを再認識し、起訴された3力士の解雇を強く主張したが、他の理事全員が猛反発する異常事態となり、“クーデター”の様相を呈した。

 昭和の大横綱だった北の湖理事長が、協会の最高議決機関である理事会で、押し倒された。

 理事会には理事10人全員が出席。同理事長は人命が失われた事件を重く見て、起訴された3力士の解雇を強く主張した。ところが、残る理事は、けいこ場での暴行はあくまで昨年10月に解雇された元時津風親方の山本順一被告(58)の指示として異議を唱え、まさかの「1対9」で勝負がついてしまった。

 処分は「有罪が確定すれば解雇、それまでは出場停止」とし、事実上の「先送り」となったが、前代未聞の“クーデター”の様相だ。

 出席者によると、開会前に北の湖理事長は執行部の理事4人と打ち合わせを行い、この場で解雇処分を事実上決定するつもりでいた。だが、九重広報部長(52)=元横綱千代の富士=や友綱教習所長(55)=元関脇魁輝=らが猛反対。理事長は「そんな甘い姿勢でいいのか。ここでけじめをつけるべきじゃないのか」と解雇を強硬に主張。事前協議は結論が出ないまま終わった。

 理事会では有罪確定まで解雇しない案が出され、北の湖理事長は「静観ばかりしていると世間から相当に厳しい批判を浴びるぞ。それでもいいのか」と反論したが、残る9人の理事は黙殺。わずか15分ほどで幕を閉じた。同理事長によれば、自分のいないところで複数の理事が意見をすりあわせていたようだ。

 理事長への反対には、求心力が著しく低下した現状と、強い“身内の論理”があった。相撲界では師匠の命令は絶対で、弟子はそれに従うのが当然。今回も師匠の指示で制裁がエスカレートし、悲劇が起きた。協会内では3力士を「加害者であり被害者」とかばう声もあり、今後、主導は元時津風親方にあったことが判明する可能性もあり、永久追放となる解雇は重いとする意見が支配した。友綱親方は「自分の思ったように進んでよかった。(復帰への道が)閉ざされないようにと思ったからね」。

 師匠に逆らえない相撲界特有の力士の事情が考慮された結論だが、協会の根幹も大きく揺らぐ。相撲界では理事長の決断は「鶴の一声」「天の声」ともいわれ、権力は絶大だった。それが、縦社会を形成する秩序の象徴でもあった。“相撲の神様”といわれた元横綱双葉山は時津風として、「栃若時代」を築いた春日野(元横綱栃錦)、二子山(元横綱初代若乃花)らも理事長を歴任。手腕をふるった。

 起訴された先月29日にはすぐに理事会を開かず、八百長報道、一連の朝青龍騒動と昨年から対応のまずさを露呈してきた北の湖政権に対し、各理事が一気に反旗を翻す緊迫した事態。理事会後の会見では、処分内容に不本意なはずの北の湖理事長にすべてを任せ、友綱親方を除く各理事はノーコメント。信頼回復への光は見えない。

★理事長に聞く

 起訴された力士3人の処分を発表した北の湖理事長は、最後まで厳しい表情で会見を行った。

 ――理事会で決まったことは

 「時津風部屋の力士3人は、有罪が確定した時点で解雇することとし、それまでの間は出場停止とする。送検された力士2人は春場所出場停止。番付では休場扱いとする」

 ――処分理由は

 「3人が起訴されたことと、人が亡くなったという重大さを認識しなければいけない。有罪が決まったときに厳しい対応が必要だ」

 ――力士側の弁護士から協会に弁明の機会を求める嘆願書も出た

 「3月3日付で、先方から出されている」

 ――2月29日に起訴された段階で理事会を開かなかった

 「その日は急きょ書類送検された2人もいたので慎重に考えたいと思った」

 ――今回の件で、協会幹部の処分は

 「役員は(元時津風親方解雇のときに)自主的に減俸を申し出ている。力士を育てる年寄は、その責任を認識しなければいけない。今後は今回のことでけいこのあり方を考えていかないといけない」

★会見は10分弱

 時津風部屋の力士急死事件で力士への処分を決めた6日の臨時理事会後の会見は、ワイドショーのリポーターを含む多くの報道陣が詰め掛けたが、相撲記者クラブ幹事社による代表質問に限定され、時間は10分足らずで打ち切られた。

 起訴3力士の解雇を主張しながら他の理事の賛同を得られなかった北の湖理事長が会場を去る際には会見で質問ができなかった記者団が一斉に群がる騒ぎに。この時も同理事長は有罪が確定する前での解雇を示唆するなど会見内容と矛盾した発言をし、現場は混乱した。


■力士死亡事件経緯

 ▼平19年6月25日 時津風親方(当時)からビール瓶で殴られ、兄弟子から木の棒などで殴られる
 ▼26日 ぶつかりげいこ後、意識不明に。病院で午後2時10分に死亡。死因は急性心不全と診断
 ▼28日 親方が会見し、制裁目的の暴行やけいこの行き過ぎを否定。遺族の依頼で新潟大が解剖
 ▼8月上旬 親方が斉藤さんの実家を訪れ、ビール瓶で殴ったことを認め謝罪
 ▼9月28日 北の湖理事長が文部科学省を訪れ謝罪。渡海紀三朗文科相が、真相究明を指示
 ▼10月5日 協会が緊急理事会を開催し、親方の解雇を決定。新潟大が死因は多発外傷性ショックとの鑑定結果
 ▼平20年2月3日 名古屋大の再鑑定結果も多発外傷性ショック死
 ▼7日 愛知県警が傷害致死容疑で元時津風親方と兄弟子3人を逮捕
 ▼29日 名古屋地検が傷害致死罪で元時津風親方ら4人を起訴

■昨年の騒動

 ★八百長疑惑報道 平成18年九州場所で優勝した朝青龍の“八百長疑惑”を19年1月発売の「週刊現代」が報道。日本相撲協会は、直後に横綱朝青龍などから事情聴取、疑惑を全面否定した。2月に協会は発行元の講談社に対し、発行人、筆者らを相手取って民事訴訟を起こしたが、現在も係争中
 ★朝青龍騒動 7月25日、夏巡業への休場届を出しながらモンゴルでサッカーに興じていたことが発覚し、2日後に緊急会議を開く。8月1日、協会は2場所出場停止、九州場所千秋楽までの謹慎などの処分を下した。その後、「解離性障害」と診断された朝青龍の帰国問題で、北の湖理事長は通院を最優先として帰国を認めなかったが、急転して認めるなど対応がぶれた
 ★力士暴行死事件 6月に時津風部屋の力士が死亡した事件で、北の湖理事長は長期間、捜査の行方を見守る姿勢を崩さなかった。対応が後手に回った協会に、監督官庁の文部科学省は組織の改善を要求した

■理事会

 協会で重要事項について議決する最高機関。理事長を含む7〜10人の理事によって構成され、理事長が議長を務める。理事在籍数の3分の2以上の出席または、委任状をもって開催される。監事も出席して意見を述べることができるが、評決に加わることはできない。

■理事長

 日本相撲協会で理事の互選によって選ばれる最高責任者。設立当時の最高位は会長だったが、戦後廃止され、現役職。任期は理事と同じく2年で、再任も可能。また、理事長は退任後も相談役として理事と同等の待遇を受けることもできる。

日本相撲協会理事会・6日の出席者
年寄名齢 職 務 (現役時代のしこ名)
北の湖54理 事 長(元横綱北の湖)
武蔵川60事業 部長(元横綱三重ノ海)
大 島60巡業 部長(元大関旭 国)
間 垣54地方場所部長・大阪(元横綱2代若乃花)
伊勢ノ海61総合企画部長(元関脇藤ノ川)
出羽海58地方場所部長・九州(元関脇鷲羽山)
放 駒60審判 部長(元大関魁 傑)
友 綱55相撲教習所所長(元関脇魁 輝)
九 重52広報 部長(元横綱千代の富士)
二所ノ関59地方場所部長・名古屋(元関脇金 剛)

日本相撲協会・歴代理事長
年寄名現役時のしこ名在職
広瀬正徳−−−10年
出羽海横綱・常ノ花13年
時津風横綱・双葉山11年
武蔵川前頭一・出羽ノ花5年
春日野横綱・栃錦14年
二子山横綱・若乃花4年
境 川横綱・佐田の山6年
時津風大関・豊山4年
北の湖横綱・北の湖6年〜
【注】広瀬は陸軍主計中将。出羽海は就任時藤島、境川は出羽海