2017.4.26 13:10

【高橋信之コラム】音で楽しむSF&ファンタジーコメディ

【高橋信之コラム】

音で楽しむSF&ファンタジーコメディ

特集:
高橋信之
シンガー”コメディ”ソングライター「弱つよむ」

シンガー”コメディ”ソングライター「弱つよむ」【拡大】

 弱つよむワンマンライブ!

 もう25年くらい前からの知り合いで、コントやコミックソングを歌っている「弱つよむ」という男がいる。

我輩も間も無く還暦だが、弱くんも50歳を越えたと思う。このヒトの「少しSFとファンタジー風味」のお笑いがなかなかオモシロイのだ。

この間のワンマンライブ(3時間!)のネタ、どれも良かったが中でも気に入ったのは『過去に行きたかった男』という弾き語り曲。

こんな話だ。(記憶に頼って)

 さしたる財産も希望もなく人生に絶望した男が飲み屋街を彷徨っている時に見つけた1枚の看板。そこには「あなたの全財産と引き換えに過去に行けます」とあった。

男は自分の財産では相手にされないだろうし、どんなカラクリの商売なのか少々興味が湧いて、その看板の扉を開ける。

出て来たのは、いかにもインチキ臭い男。

 とうとうと、これがもうひとつの人生を過ごすことの出来る「過去への時間旅行」であること、この現世には二度と戻れないから財産は全て旅行社に寄贈して行くこと、という2点を説明する。

 説明するインチキ男の勢いのある喋り方と僅かながらの酔いもあって男は契約書にサインしてしまい、或る湖へと連れて行かれる。

 そこには一隻の小さなボートが浮かび、ふたりの男が先客として乗っていた。

 彼らもまた今の人生を捨てて過去への一方通行の旅に志願した男たちだった。 ひとりは自分よりも年上、ひとりは遥かに若い。

 さて3人は多少の自己紹介をすますと言葉少なく、旅立ちの時を待った。

 沈黙に耐えきれず、男は渾身のギャグを話す。緊張は一気に吹き飛び、ふたりの男も笑いだす。だが、船は動かない。

 1時間、2時間と時は過ぎて行く。

 だが船は動く気配もなく、ただ霧だけが濃ゆくなってゆく。

 その男は「騙されたっ!」と思い、こんな手間隙を掛けて僅かばかりの財産を掠め取られた自分を腹立たしく思いながら、船を降りてしまう。

 と、その時。

 ボートは残りのふたりを乗せたまま、ますます濃さを増す霧の中にするすると進み始め、やがて消失してしまう。

 残されたのは、僅かな波紋。

 男の網膜には、自分が降りた時に「君は降りるのか?」と戸惑いの光を浮かべて見つめるふたりの男の表情だけが残った。

 一晩かけて自分の部屋に戻った男。

 その部屋には何ひとつ残されていない。あの旅行社のインチキ男がすべてを持ち去っていた。自分の猜疑心、その場であった男たちと行動を共にしなかったがために過去への旅行に行けなかった男は落胆する。

 と、そこに1通の手紙が届く。

 手紙の主は、男が全財産を失ったことも、ひとかけらの戸惑いから過去に旅立てなかったことも知っていた。

 そう男は猜疑心だけではなく、現世への未練から船を降りてしまっていたのだ。

 そんな男に手紙の主は憐れみの情を示す。

 そして、あの時のギャグの御礼にと莫大な遺産を託すことを伝える。

 そう手紙の主は、あの時に旅立っていったふたりのうちのひとり。どうやら彼らは過去に戻って大成功をし、莫大な資産を築いたらしい。

 その全ての財産を男に遺して彼らの過去への旅は終わっていた。何年も前に。

 これだけの資産を残すために、一体どれだけの冒険や興奮があったのだろう!

 一生遊んで暮らしても使いきれないほどの財産を相続することになった男、生活の心配はまったく無くなった。

 だが、男が死ぬまで思い続けるのは、あの時に船を降りてしまった意気地なしな自分への後悔。あのふたりと過去の世界でどれだけの冒険ができたことだろう。

 と、まるで安部公房か星新一のショートショート、或いは「世にも奇妙な物語」、いやもっと過去に戻って「トワイライトゾーン」のエピソードのような弾き語り、これが10分もかからない。

 もうね、シンガーというよりもギターを持った琵琶法師ですわ。人生の機微や運命の面白さを込めて展開するファンタジーテール。

 「弱つよむ」は、その昔、エルビスというよりもコント(ふたり組)もやっていて、これもオモシロかった。

 電車の中で呼び出しコールを鳴らした男が取り出したのは、指先くらいの大きさの携帯電話。しかも電話の相手から資料を貰うのに、その豆電話からファックスが出てくる。

 そして 電話を終わった男は、その豆電話を投げ捨てる。(使い捨てかよっ!)

 という携帯電話の進化を予言した名作。

 これが20年前のコントとは思えない。いま、やってもまだまだ通用するセンス。

 いや、待てよ。

 この男、弱つよむこそ、未来から過去にやってきた男なのかもしれない。この時代のお笑いとめくるめく冒険を求めて。

 他にも「未来昔話」という、いつか遥か未来に語られるであろう昔話になった「現代」をシニカルに眺めたお伽話も良かった。

 絵本にしたくなるオトナの寓話。

 こういうSF&ファンタジーセンスに溢れたコント、ギャグ、いいよねぇ。

 ラノベ、漫画、アニメ、ゲーム。

 僕らが好きなテイストやらジャンルを表現する新しいジャンルとして話芸すなわち「トーキングアート」、物語歌謡すなわち「テールソング」という表現メソッドがあってもいいなぁと思ったぜい。

 キングコングの西野とか、こういうスタイルでやった方がいいのになぁ。

高橋 信之

「高橋 信之」イメージ画像スタジオ・ハードデラックス株式会社 代表取締役 東京国際アニメフェア実行委員 日本アニメーター・演出協会 応援団長 アニメ記者クラブ/アニメプレスセンター 起案者・理事「出版や広告、商品開発、映像メディアで活動するプロデューサー/プランナー。アニメ、SF映画、ビデオゲーム、玩具、デジタルデバイスなどを得意分野とし、多くの雑誌編集者やデザイナー、映画監督と交流する。

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