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2008年02月29日 紙面より

なかにし礼、舞台への熱き想い 心の鎧脱ぎ捨て祭りに参加を

なかにし礼

「生の舞台を見て刺激を受けることは、常に心を青春にすることと同じ。大人たちよ、劇場へ行こう」と熱く語るなかにし礼さん(撮影・千村安雄)

DVDの普及で、古今東西の名画が手軽に見られる現代。そんな時代だからこそ、生で観る舞台の魅力が見直されている。直に伝わってくる俳優の息づかい、舞台と観客席とが一体になって盛り上がるクライマックス…。目の前で演じられる世界に没入して泣き、笑う瞬間は、大人世代の心をみずみずしくしてくれる。自ら脚本を書いた直木賞受賞作「長崎ぶらぶら節」の東京公演を控えた作家のなかにし礼さんが語る生の舞台の魅力とは−。

3月4日から東京・池袋の東京芸術劇場で行われる文学座公演「長崎ぶらぶら節」。この作品はこれまで映画、テレビドラマ、ラジオドラマ、舞台化もされてきたが、今回はなかにしさん自身が脚本を書いた。自作を自ら脚色するのは同じく文学座の「戯曲 赤い月」以来となる。

なかにしさんは「小説と舞台は別物ですが、この作品は『思うような舞台にしたい』と、満を持して原作者が脚本を書いた自信作です」。舞台のできばえについて「主役の愛八役の平淑恵さんは声もいいし、滑舌もいいし、三味線もうまい。相手役の渡辺徹さんの存在感もある。長崎の方言が醸し出す情緒もあっていい舞台になっていると思います」と満足そうだ。

作詩家として約4000曲の歌を作り、平成に入ってから作家に転身、話題作を次々に発表しているなかにしさん。実は舞台との縁は深い。オペラの演出をはじめ、役者、舞踏家、オペラ歌手、オーケストラ、大合唱、さらに観客までもがひとつにとけあって舞台を作り出す総合芸術「世界劇」の作、演出なども手がけている。もちろん、プライベートでも劇場によく足を運ぶ。そんななかにしさんは、生の舞台の魅力をこう語る。

「舞台は一期一会。同じ空気を吸って目の前に見える『今』しか、舞台は存在しないんです。舞台は毎日毎日、新しく生まれているもの。だからこそ、傑作が生まれる現場に立ち会える。そんな舞台が観られたら、一生忘れられない喜びの瞬間になりますよ」

長崎ぶらぶら節

原作者なかにし礼さんの手による脚本で上演される文学座「長崎ぶらぶら節」。平淑恵、渡辺徹ら俳優陣の好演もあって、充実した舞台となっている(撮影・飯田研紀)

さらに、大人世代にとって舞台は「アンチエイジング」の効用もあるという。舞台を観ることで得られる感動が、精神を若く保たせてくれるから、となかにしさんは考えている。

舞台を観て、喜怒哀楽の感情にひたることは、疲れた心のリセットになる。舞台から受ける刺激は精神を活性化させてくれる。心に刺激を受けることはなによりも若返りになるはずですね」

生の舞台を観たら、泣け、笑え、ハラハラしろ、ドキドキしろ、そしてどっと感動しろ、という。劇場は忙しい大人世代こそが、足を運ぶにふさわしい空間なのだ。


■文学座公演「長崎ぶらぶら節」

3月4〜10日、東京芸術劇場中ホール(東京・池袋)。長崎を舞台に、芸者・愛八(平淑恵)と遊興で身代をつぶした学者・古賀十二郎(渡辺徹)が出会い、深い心の絆で結ばれて、2人3脚で長崎の埋もれた歌を探す旅に出る物語。今回は、原作者のなかにし礼さんが自ら脚本を担当。原作の持つ魅力が舞台に凝縮され、細やかな人情の機微が伝わってくる。A席6500円、B席4000円。問い合わせは、TEL03・3351・7265。

【なかにし礼さんがすすめる芝居の楽しみ方】

★「心の鎧(よろい)」を脱ぎ捨てる=劇場は非日常空間。一歩入ったら、肩書きだとか社会の地位だとかは忘れよう。「心を裸にして舞台に没入する。斜に構えて“評論”しても感動できません」

★人目は気にしない=「舞台を観て泣いたら恥ずかしいなんて、一切思わないこと。泣いて笑って、感情を解放しよう」

★「祭り」に参加する気分で=「もともと劇場は神に芸能を捧げる祝祭の場。観客も舞台に参加する一員の気分で。ノリが大切です」

★友人と舞台を語ろう=「欧米の劇場に行くと大人たちがいっぱいいる。日本ももっと芝居が気軽に語れるようになれば、大人たちの心が豊かになる。舞台の話を酒の肴(さかな)にするぐらいになってほしいですね」

【原作や映画でなじみのある作品を見る】

「黒蜥蜴」

三島由紀夫の戯曲「黒蜥蜴」。主演の美輪明宏の妖艶な美しさもみどころ(撮影・御堂義乗)

シアターコクーン(東京・渋谷)を展開する東急文化村編成製作部の加藤真規編成室長は、「(芝居では)原作をベースに演出家がアレンジ、ある種の現代性を持たせている。原作や映画との違いを楽しむのも面白い」という。4月、シアターコクーンで上演される「どん底」は、マクシム・ゴーリキーの戯曲で、日本では、舞台を江戸時代に置き換えた黒澤明監督の映画「どん底」が有名だ。シアタークリエ(東京・日比谷)で4〜6月に上演される「レベッカ」も、アルフレッド・ヒチコックの同名映画で知られる。「蜷川幸雄さん演出の『王女メディア』などギリシャ悲劇の上演後に、劇場内で原作を買われる方も多い。芝居を観ることで、それぞれの人物像などより深いところに興味がでてくる。芝居には、そんな魅力もありますね」(同)。


【大人の男を魅了するミュージカル】

「ラ・マンチャの男」

昭和44年の初演以来、上演回数1086回という「ラ・マンチャの男」

「ミュージカルで使われる音楽は、悲しみや高揚感を増す、感情の増幅装置」というのは、帝国劇場(東京・日比谷)、日生劇場(同)などでミュージカルを上演する東宝演劇部宣伝室の飯田眞一室長。たとえば、4月に帝国劇場で上演される、松本幸四郎主演の「ラ・マンチャの男」。大人世代の男性には、ミュージカルに苦手意識を持つ人も多いが、チャラチャラと歌って踊るものとバカにしていた人たちほど実際にみると、ぐいぐい引き込まれ、涙を流すという。「大人向けのミュージカルには、哲学的ともいえるテーマ性がある。最近は、おじさん世代のミュージカルファンが増えているんです」と飯田さんは話す。


◆この春東京で上演されるおすすめ舞台とチケット情報◆
★ベガーズ・オペラ/日生劇場(日比谷)/3月5日〜30日=発売中(S席1万2500円、A席7000円など)。1728年にイギリスで初演された“世界初のミュージカル”。色男の盗賊と2人の娘の三角関係を中心に、18世紀のロンドンに暮らす庶民たちの姿を描く。主演は、内野聖陽、島田歌穂、笹本玲奈
★さらば、わが愛 覇王別姫/シアターコクーン(渋谷)/3月9日〜31日=発売中(S席1万1000円、A席9000円など)。京劇俳優の生き方に中国の現代史を重ねた大ヒット映画を蜷川幸雄の演出と宮川彬良作曲で音楽劇として舞台化。主演は東山紀之、木村佳乃
★思い出のすきまに〜The Drawer Boy/本多劇場(下北沢)/3月12日〜26日=発売中(前売5000円、当日5500円)。カナダの劇作家マイケル・ヒーリーのヒット作の初の日本語上演。カナダの田舎の小さな農場を舞台にした、2人の中年男と1人の都会の青年の友情のドラマ。主演は加藤健一、新井康弘、山本芳樹
★プリズンホテル 〜あじさいホテルへようこそ〜/三越劇場(日本橋)/3月16日〜23日=発売中(7500円)。義理と人情を大事にし、筋を通すことに重きを置くヤクザが経営するホテルを舞台にした浅田次郎の小説を舞台化。主演は多岐川裕美、山口果林
★ラ・マンチャの男/帝国劇場(日比谷・有楽町)/4月5日〜30日=発売中(S席1万2500円、A席8000円など)。セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」をもとにしたミュージカル。上演回数1086回を数える松本幸四郎のライフワーク。共演は松たか子
★どん底/シアターコクーン(渋谷)/4月6日〜27日=発売中(S席9000円、A席7500円など)。帝政ロシアの下層階級に生きる人々の日常を描いたゴーリキーの「どん底」をケラリーノ・サンドロヴィッチが演出。主演は、段田安則、江口洋介、荻野目慶子
★黒蜥蜴/ル テアトル銀座 by PARCO(京橋・銀座)/4月18日〜6月1日=3月1日発売(S席1万1000円、A席8500円など)。江戸川乱歩の探偵小説をもとに三島由紀夫が脚色を加え、美輪明宏が日本語の美しさや美的頽廃感を余すことなく表現した壮大な恋愛物語。主演は美輪明宏。共演は高島政宏、木村彰吾