認知症は予防できる!もの忘れを放置するな

「人の名前がとっさに出てこない」「財布やカギを置いた場所を思いだせない」「同じことを何回も言ってしまう」…。もし、こうした“もの忘れ”が同年代の人に比べて多いと感じたら要注意だ。アルツハイマー病などの認知症の前段階として最近注目されている「軽度認知障害」の可能性があるからだ。そのまま放置すると約5割の人が認知症に移行。だが、この段階で生活習慣の改善や治療を始めれば、認知症を予防することもできる。あなたは大丈夫ですか?
脳の神経組織の障害によって起こる認知症。脳の老化は40歳を過ぎると始まるといわれ、だれにでも起こりうる怖い病気だ。その前触れともいえる「軽度認知障害(MCI)」で、重要なサインとなるのが“もの忘れ”だ。
横浜市立大学名誉教授で、認知症治療を専門とする、ほうゆう病院(横浜市旭区)の小阪憲司院長は、「認知症が、食事をした行為自体を忘れてしまうのに対し、『軽度認知障害』の場合は、きのうの夕飯に何を食べたかを忘れるといった、よくある“もの忘れ”。『軽度認知障害』の時点で生活習慣の改善や投薬による治療を始めることが、認知症の予防につながり、発症や進行を遅らせたり、軽症ですませたりすることも可能になってきている」と話す。
“もの忘れ”が増えても、つい「年だから」ですませがち。だが、度重なると重要な危険信号。「日常生活に支障がない“もの忘れ”でも、本人だけでなく、周囲も多くなっていることに気づくはず。同年代の人と比べて多いようなら、認知症治療を行っている病院の『もの忘れ外来』などで検査を受けるべき」と小阪院長。というのも、放置すると、「認知症に移行する確率が高くなってしまう」からだ。
特に、まじめで人付き合いが好きではなく、趣味がない仕事一途の人は、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症になりやすいというデータもある。
治療は、生活習慣の改善が中心。中でも、重要なのが、「楽器演奏や絵画、俳句や短歌、料理、庭づくりなど、物事を構築する能力が必要な、仕事と離れた趣味を持ち、脳を活性化させること」と小阪院長。さまざまな人との交流や会話も、脳の知的機能を自然に活性化させる。最近、増えている脳の活性化のためのドリルなどもOKだ。
また、メタボリックシンドローム予防と同様、「バランスのよい食生活(別項)や1日5000歩以上歩くといった運動も大切」(同院長)。高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病は、それ自体が認知症の発症リスクになるため、きちんと治療する。加えて、アルツハイマー型認知症の治療薬「塩酸ドネペジル(アリセプト)」を併用するとさらに効果が高くなる。
認知症予防にも役立つ生活習慣の改善。それでも、“もの忘れ”の多さが気になったら、専門医の診察を受けることが、重要だ。
■こさか・けんじ
ほうゆう病院(横浜市旭区)院長、横浜市立大学名誉教授。日本老年精神医学会理事長。医学博士。昭和40年、金沢大学医学部卒業。平成3年、横浜市立大学医学部精神医学教室教授。7年、同大学医学部附属浦舟病院長。15年まで、同大学附属市民総合医療センター精神医療センター長を兼任。さわらび会福祉村病院長を経て、昨年より現職。聖マリアンナ医学研究所長も兼任。レビー小体型認知症の発見者として国際的に知られる。日本神経精神医学会、日本認知症学会、日本神経病理学会名誉会員など。
| ◆認知症の種類◆ |
|---|
| ★アルツハイマー型認知症=女性に多い。脳にベータたんぱくやタウというたんぱく質がたまって脳の神経細胞が破壊され、脳が萎縮する。感情表現が乏しくなりがちで、意欲が低下。異常な言動を起こしやすい |
| ★レビー小体型認知症=男性に多い。パーキンソン病の原因にもなるレビー小体が脳内の神経細胞にできる。“もの忘れ”や「見当識障害」はアルツハイマー型ほど強くなく、被害妄想や幻視などの周辺症状が先に現れる |
| ★脳血管性認知症=男性に多い。脳梗塞や脳出血などによって発症。機能低下がまだらに起こり、多くの場合、しびれや動きの鈍さ、マヒなどを伴う。感情がうまくコントロールできず、ささいなことで怒ったり、急に泣き出したりすることがある |
■認知症の症状
認知症の初期症状には、「軽度認知障害」同様、“もの忘れ”が多く、食事したことや、物をしまったことなど、体験したこと全体を忘れてしまうことが多い。また、昔のことはよく覚えていても、最近のできごとを覚えていないというのも認知症の特徴だ。
今まで使っていた洗濯機を使えなくなったり、慣れた道で迷ったりするといった「見当識障害」も現れてくる。ふだんは当たり前に認識している時間や場所、人がわからなくなり、判断力や理解力にも影響がでる。多くの場合、ゆっくり進行する。認知症に伴って起こる妄想や幻覚、徘徊、抑うつ症状などは、「きちんと治療すれば、かなり改善する」と小坂院長。
★「軽度認知障害」の検査
中心は詳しい問診。聞いた数字を逆から言ったり、覚えておいた言葉をあとから答えたりする「長谷川式簡易認知症評価スケール(長谷川式テスト)」などの記憶・認知機能テストやCTなどの脳の画像検査を行う。
「軽度認知障害」の場合、脳の血流を調べる「脳血流SPECT(スペクト)」で、血流低下が見られることもあるという。小阪院長によると、「総合病院でも、認知症治療を専門にしている医師がいない場合、『軽度認知障害』を起こしていても気がつかず、見落とすこともあります。“もの忘れ”が気になるなら、専門医の診断を受けることが大切です」という。
★「軽度認知障害」治療のための食生活
「食事は脳機能を維持し、認知症を防ぐ大切なポイント。『軽度認知障害』治療のための食生活は、そのまま認知症予防につながります」と小阪院長。“もの忘れ”はひどくなくても、将来に備えるには、今から食生活を改善することが肝心だ。EPAやDHAなどの不飽和脂肪酸を多く含む「青背の魚や野菜が中心の従来型日本食が認知症予防には最適」(同院長)で、とくに、ビタミンCやE、ベータカロテンなどの抗酸化物質を豊富に含む緑黄色野菜を積極的に食べること。
肉類に多く含まれる飽和脂肪酸やリノール酸など摂取量が多いと、認知症を発症しやすくなるといわれており、「肉を食べるときは、ヒレ肉やもも肉、ささみなど、脂肪が少なく、タンパク質が多い部位がおすすめ」(同院長)だ。また、豚肉に多く含まれるビタミンBは、脳のブドウ糖代謝に関連する酵素の働きを助けるという。

