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2007年09月14日 紙面より

なかにし礼69歳 今まさに人生の黄金期

「ボーダーレスに世界に通じる芸術を発信したい」というなかにしさん。知的エネルギーにあふれ、その視線は常に前を見つめる(撮影・今井正人)

作家のなかにし礼さんが芸術総監督をつとめる「TEPCO1万人コンサート 世界劇『黄金の刻(とき)』−愛と永遠の絆」が、29日、日本武道館で開催される。「安寿と厨子王」の物語をなかにしさんが新解釈で書き下ろし、役者、舞踏家、4000人の大合唱とオーケストラ、オペラ歌手、さらに観客も含めた1万人の競演によって現代に甦らせるという壮大な試みだ。30、40代は作詞家としてヒット曲を量産、50代からは作家として数々のベストセラーを世に出したなかにしさん。69歳を迎えた今、思うことは−。

東京・新宿の稽古場。武道館の舞台をイメージしたセットでは、和服姿の里見浩太朗、林与一、牧瀬里穂、朝海ひかるさんらの熱の入ったせりふのやりとりが続く。舞台を鋭い目で見つめるなかにしさんから、役者の細かい動きに指示が飛ぶ。

「この作品は言葉、音楽、肉体の動きの三位一体で構成されているのが特徴です。役者には役者の“生理”というものがありますけど、その感性で芝居をされると構成が崩れてしまう。この作品では役者も歌手も踊り手も、それぞれの動きを一点一点ゆるがせにしないことこそが重要なんです」となかにしさん。

なかにしさん総指揮の今回の「世界劇」は、言葉と音楽と動きを組み合わせた“壮大な立体的ジグソーパズル”。4000人の合唱団、オーケストラ、舞踏家、役者、観客も含めた総勢1万人はそのピースであり、なかにしさんの構想通りに動き、歌うことで、「黄金の刻」という物語が武道館に出現するというスケールの大きな仕掛け。世界に類のない試みだ。

この「1万人コンサート」は今年で17回目。オラトリオ「ヤマトタケル」、世界劇「眠り王」に続く今作は、山椒太夫と安寿と厨子王の説話を下敷きにした愛と奇跡の物語。善と悪、生と死と復活、人間が人間として生きるとはどういうことかといった哲学的な問いかけもなされている。

「最近のニュースを見ていると、悪がはびこり、善なる心はどこへ行ったのかと絶望的な気分になりますね。そんな時代だからこそ、この作品では、善なる心が勝利することは間違っていないんだ、それしか人間が復活する方法はないんだということを訴えたい」

世界に通じる哲学をもつ作品だけに海外公演にも意欲的で、「国を超えてボーダーレスに発信していきたい。日本人古来の考え方の良さは十分に分かっていますが、土着の考え方にこだわって内向きになるのは世界の流れに逆行している。今こそ西欧的なものをきちんと学び、大きく視野を持つべき」という。

常にエネルギーの渦巻く所にいるのが好き。数年前、神奈川県逗子市から都心に引っ越したのも「逗子の暮らしは、執筆時間はとれるんだけど、物書きとしては老ける」から。刺激のある場所にいれば、いつも感動できるように自分のアンテナを磨いていられる。「はやりのリタイア後の田舎暮らしは、おすすめしないなあ」とか。

生きている限り前進したい。「飲みにもいくし、恋もしますよ」と笑う69歳。今まさに「黄金の刻」にいる。

★衰えない知的エネルギー

現在、自作の「戦場のニーナ」の映画化を企画中。なかにしさんは製作・脚本に加え、なんと初監督にも挑戦する予定だ。

「『世界劇』は数千人の合唱団が必要だし、なかなか海外公演は難しい。それに比べて映画の方が海外に持っていきやすいんですよ。ストーリーと音楽は国境がないし、言葉は字幕にできる。映像は世界語。脚本もできたし、今回の作品は日本映画の枠を超えてスケールの大きい作品に仕上げたいですね」

「世界劇」をあと2つ3つ作るエネルギーはあるというから驚かされる。実年齢は69歳だが、気分は50代半ばとか。

「年を取るのが怖いのではなく目的を失うのが怖い。人間は死ぬまで前進し、変化するもの。止まった瞬間に死んでしまうと思うんですよ」

おしゃれでダンディーで知的でエネルギッシュ。お手本にしたい大人でもある。

■なかにし・れい

作家・作詩家・演出家。昭和13年、中国黒龍江省牡丹江市生まれ。8歳で帰国。立教大学仏文科在学中から訳詩をはじめ、作詩家として約4000曲の歌をつくる。「天使の誘惑」「今日でお別れ」「北酒場」で日本レコード大賞を受賞するなど受賞歴多数。作家に転身後は、「長崎ぶらぶら節」で平成12年に直木賞受賞。「兄弟」「赤い月」「てるてる坊主の照子さん」「夜盗」「さくら伝説」「黄昏に歌え」など著書多数。舞台作品の作・演出ではオペラ「ワカヒメ」「静と義経」、オラトリオ「ヤマトタケル」、世界劇「眠り王」「源氏物語」など。CD「モーツアルト・コレクション」を発表するなど多彩に活躍中。


★安寿役の牧瀬里穂さんがみた「黄金の刻」

「世界劇」初出演の抱負を語る安寿役の牧瀬里穂さん(写真右)と厨子王役の朝海ひかるさん(左)(東京・新宿の稽古場)

「昨年のDVDを観て、すごい舞台だなと軽くパニックになっています。自分の経験や価値観をゼロにしてはいらなきゃいけない。稽古のスピードも早いし、ついていくのが大変。なかにし先生にひっぱっていってもらっています。舞台では、演技だけでなく、高さ30メートルからの宙乗りがあったり、すべてが初体験。怖いけど、やるしかないと覚悟しています」

★厨子王役の朝海ひかるさん

宝塚では男役でしたが、今回の作品では少年から演じます。子役は初めて。自分では青年期の厨子王の方がしっくりくるかな? 舞台経験は豊富ですが、1万人の視線が集まるのも、日本武道館という空間の大きさも未経験で、恐ろしいですね。それをプレッシャーに感じて小さくなってしまわないようにしたい。


★「TEPCO1万人コンサート真説・山椒太夫 世界劇『黄金の刻』−愛と永遠の絆−」

壮麗でスケールの大きい舞台では、宙乗りや早変わり、屋台崩しなど、スペクタクルな見どころも多い(昨年の「黄金の刻」公演)

安寿と厨子王の姉弟は母と乳母と4人で遠国に行ったきりの父を訪ねて旅立つ。途中で一行は人買いの罠にかかり、母と乳母、姉弟は別々に売られてしまう。錬金術師・山椒太夫の元に連れてこられた姉弟は苦難の日々を過ごす。それは父が与えた試練だった…。

「世界劇」とは、ドイツの作曲家カルル・オルフが提唱したもので、詩(言葉)と音楽、人体の動き(主に舞踏)が一体となり1つの世界を創り出す総合舞台芸術のこと。「黄金の刻」では、里見浩太朗、牧瀬里穂、朝海ひかる、平淑恵、中田喜子らの俳優陣に、ブロードウェーで活躍中のダレン・リーが振り付けとダンスで出演。作・作詩、演出なかにし礼、作・編曲は小六禮次郎、指揮・堤俊作、演奏・ロイヤルメトロポリタン管弦楽団。



◆「大人の社会科見学」を楽しめる愛知県の施設◆
★名古屋市西区/ノリタケの森/TEL052・561・7290=陶磁器がテーマの複合施設。明治から昭和初期にかけて作られ、美術品としての価値も高い初期の同社製品「オールドノリタケ」を展示するミュージアムのほか、絵付け体験ができるクラフトセンターも
★名古屋市瑞穂区/ブラザーコミュニケーションスペース/TEL052・824・2227(要予約)=ミシンの国産化に始まり、編み機、家電、タイプライターを経て、プリンターを中心とする情報通信機器を製造するブラザーの歴史の紹介。新製品の体験もできる
★瀬戸市/瀬戸蔵ミュージアム/TEL0561・97・1555=旧尾張瀬戸駅や石炭窯、煙突などを再現。瀬戸焼の変遷の歴史に関する全長30メートル以上の大パノラマ展示も人気が高い
★瀬戸市/瀬戸市マルチメディア伝承工芸館/TEL0561・89・6001=伝統技法の瀬戸染付がテーマ。ロクロや絵付などの作業風景の公開のほか、瀬戸染付の名品や登窯の古窯などを展示
★豊田市/トヨタ会館/TEL0565・29・3355=ハイブリッドカーの進化と将来の循環型社会、1人乗りの未来型移動手段「アイユニット」を使った社会などを紹介。トヨタ・パートナーロボットによる演奏も楽しめる。8月27日から施設案内ロボットも登場
★半田市/博物館「酢の里」/TEL0569・24・5111(要予約)=ミツカングループによる日本で唯一の酢の総合博物館。昔の酢作りの道具を展示、酢醸造の工程や蔵の職人制度、人々の生活ぶりを知ることができる。実際にお酢が作られている発酵室などの見学も
★半田市/國盛 酒の文化館/TEL0569・23・1499(要予約)=中埜酒造による酒の博物館。黒塗りの壁と白いしっくい窓が印象的な江戸時代の酒蔵を使用。和紙人形による伝統的酒造りの紹介や道具類の展示、麹室の再現のほか、試飲コーナーもある
★長久手町/トヨタ博物館/TEL0561・63・5151=19世紀末から1940年代の欧米車約60台と、1936年の「トヨダAA型乗用車」から1970年ごろまでの国産車約60台を展示。14日から「歌謡曲に登場したクルマたち」展を開催