慢性的な痛みには「ペインクリニック」

多くの人に衝撃を与えた日本テレビアナウンサー、大杉君枝さんの突然の訃報。背景には、難病の線維筋痛症による、日常生活に支障をきたすほどの慢性的な激しい痛みがあったといわれている。線維筋痛症に限らず、原因が不明だったり、疾患の治療が終わっても痛みが消えないなどの理由で、慢性的な痛みに悩まされている人は多い。にもかかわらず専門的な治療を受けている人はごくわずか。周囲の理解がなかなか得られず、うつ状態を招く引き金にもなりかねない慢性的な痛み。その対処法とは?
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大杉さんの死で有名になった線維筋痛症は、体の広範囲に強い痛みを引き起こす病気。原因不明で、治療法が確立されていないことも悲劇の要因となったが、NTT東日本関東病院ペインクリニック科の安部洋一郎医長は、「線維筋痛症以外にも、日常生活に支障をきたすほどの慢性的な強い痛み(慢性疼痛)に悩んでいる人は多い」という。その数、なんと全国で約220万人というから驚きだ。
本来、痛みは体からの警告信号。通常は、原因となる疾患が治れば痛みもなくなるが、慢性疼痛の場合、通常の治癒期間の目安である6カ月を過ぎても強い痛みが持続する。痛みそのものが“病気”になるのだ。
問題は、慢性疼痛で悩んでいても、大げさに痛がっていると思われて、周囲の理解が得られないことが多いこと。「原因となる疾患の治療が終了したとか、痛みの原因が分からないことなどから、正しい診断がなされず、診療科をたらい回しにされることもある」と同医長。痛みの辛さに加え、解決しない焦燥感や、経済的負担などからうつ状態に陥いることも。
また、痛みが続くことで、「交感神経の活動が活発になり、心臓など生命維持に重要な場所に盛んに血液を送り込むため、毛細血管が収縮し、血流が悪化。これが原因で代謝異常が起こり、さらに発痛物質が発生する」と同医長。まさに“痛みの悪循環”だ。
こうした慢性的な痛みに悩む患者を専門にして治療を行うのが、ペインクリニック。中でも、神経の圧迫や損傷といった異常によって起こる神経因性の慢性疼痛の緩和には、ペインクリニックの受診が欠かせない。知覚神経系の故障が原因のため、手術で痛みの原因を取り除く整形外科などでは対応できないのだ。
ペインクリニックでの治療には、薬物療法、神経ブロック、脊髄(せきずい)刺激療法などがある。安部医長は、「痛みの悪循環を断ち切り、付き合える程度の痛みにする。痛みをゼロにするのではなく、患者の生活の質を向上させるのが目的。顔面に強い痛みが起こる三叉(さんさ)神経痛など、神経ブロック療法で劇的に痛みが緩和するものもある」と説明する。
受診の目安は、6カ月以上痛みが続いていること。ただし、他の診療科で痛みの原因が分からない場合は、早めの受診も大切だ。
本人にしか分からないことが悩みを深くする慢性的な痛み。悩んでいるなら、ペインクリニックの受診を考えてみては?
【痛みのメカニズムと種類、その治療法】
痛みには、急性疼痛と慢性疼痛の2種類がある。急性疼痛は、身の安全のための警告信号として、誰でも感じるもの。「体に傷やなんらかの障害がおきた場合、痛いという情報が末しょう神経に伝わり、脊髄を通って、脳へと届きます。人間は脳にこの情報が伝えられてはじめて痛みを認識する」(安部医長)。この場合、痛みの原因が治癒すれば、痛みは解消する。一方、慢性疼痛は、通常の治癒期間である6カ月を超えても痛みが持続するもの。神経の圧迫や損傷による神経因性疼痛と、末期がんやリウマチなどによる侵害受容性疼痛がある。
【ペインクリニックで治療の対象となる主な疾患】
★痛み・全身=帯状疱疹(ほうしん)、がんの痛み、脳卒中後の後遺症による痛み、中枢性疼痛、線維筋痛症
★同・頭部/顔面=片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経痛、舌咽神経痛
★同・頚/肩=肩こり、むちうち症、頚椎症
★同・胸背部=肋間神経痛
★同・腰部=ぎっくり腰、腰椎椎間板(ついかんばん)ヘルニア、変形性腰椎症、腰痛症
★同・下肢=座骨神経痛、腰部脊柱管狭窄症
★まひ・けいれん=顔面神経まひ、顔面けいれん、眼瞼けいれん
★血行障害=閉塞(へいそく)性動脈硬化症、バージャー病、突発性難聴
★その他=アレルギー性鼻炎、自律神経失調症、多汗症
【痛みの治療最前線】
「外科手術の後、鋭い痛みが続いているにもかかわらず、これ以上の治療はできないと言われた。ペインクリニックでの治療で、今では通常勤務をしている」と話すのは、平成16年に交通事故で多発肋骨(ろっこつ)骨折などの大けがを負い、生死の境をさまよった高崎健康福祉大学講師の岩松珠美さん(45)だ。体内に埋め込まれた機器から脊髄に微弱な電気を流すことで痛みを和らげる脊髄刺激療法を受けた結果、社会復帰は不可能とされた痛みが緩和した。痛みがなくなったわけではないが、「我慢できないほどの強い痛みを紛らわすことができると思えるだけで元気になれる。痛みと上手に付き合っていこうと思えるようになった。今では、仕事以外でも、ボディーボードやスキーなど、以前と同じ生活を楽しんでいます」と岩松さん。
| ◆慢性的な痛みの治療法◆ |
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| ★薬物療法=抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用、抗血栓作用などがある非ステロイド消炎鎮痛薬、ステロイド経口薬、抗うつ薬などを使用。モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬や、鎮痛薬と併用することで鎮痛効果を高める鎮痛補助薬を使うこともある |
| ★理学療法=リハビリテーション科で行い、マッサージやリハビリで痛みを緩和。ペインクリニックでも、患者の治療環境を整えるために、薬物療法に加えて併用する場合もある。即効性はない |
| ★神経ブロック療法=ペインクリニックの中心的治療法。局所麻酔薬やステロイド剤などを痛みの元となる神経に直接注射する。顔面や上肢からの交感神経が集まる頚椎近くの星状神経節のそばや、背骨にある脊髄(せきずい)と、その周囲を取り巻く脊柱管との間のすき間の硬膜外腔に注射することで、知覚神経や交感神経の活動を一時的にブロックする。繰り返し治療を受ける必要がある |
| ★硬膜外腔内視鏡「エピドラスコピー」=尻付近の骨の部分から内視鏡を入れ、脊髄の周りの硬膜外腔を診断。痛みの元となっている組織の癒着をはがす。椎間板(ついかんばん)ヘルニアや脊柱(せきちゅう)管狭窄(きょうさく)症などが対象。保健適用外 |
| ★脊髄(せきずい)刺激療法=刺激発生装置を胸部または腹部の皮下に植え込み、体外からリモコンスイッチで刺激強度などを調節する。脊髄に弱い電気を流し、その刺激で痛みをやわらげる治療法で、神経の損傷や圧迫などが原因の神経因性疼痛が対象 |

