猟に出て4度目の12月10日。ここまで猟果なし。釣り師は「逃がした魚は大きい」というが、あれは本当に大物だった…。配置について息をひそめる。ほどなくして無線が飛び込んできた。
「デカイぞ、猪だ!」
にわかに緊張が走る。10分ほどたっただろうか。小さな川を挟んだ対岸の藪がガサガサと鳴る。「この道を通るから」と教えられたあたり。「ついに、この瞬間が来たぞ」。わくわくで胸が高まり、自分の鼓動が聞こえる。その瞬間…100キロはあろうかという巨体が姿を現した。距離は約25メートル。悠然と走り抜ける猪に向け照準を合わせ、引き金を絞った。
「ドーン!!」。轟音(ごうおん)が森に響く。しかし、相手は垂直な崖を一気に駆け下り、川の上流に向け猛スピードで駆け上がる。逆光の中、水しぶきを立てて走り去った。「あ~当たらなかった」、そして「こんなに足が速いのか」。それが正直な感想だった。
「どうした?」と無線の声。「すみません、デカイ猪、外しました」。川伝いに血痕を探してみたが見つからない。やはり失中(外れ)か…。
猪や鹿などの狩猟は、山の中でじっと待つ「忍び猟」もあるが、一般的には「巻き狩り」という手法が用いられる。単独での捕獲は難しく、狩猟犬を放って追い立て、逃げてくる獣を待ち伏せて撃つのだ。このとき犬を放つ役目を「勢子(せこ)」、待ち受ける撃ち手を「タツ」と呼ぶ。