【第28号】上武洋次郎−左肩脱臼乗り越え大逆転
(64年東京・レスリング・フリースタイル・バンタム級=57キロ)

一日に3個金メダルを獲得したフリースタイル3人衆の中で、観客をもっとも興奮させたのが最後に登場した上武だった。
決勝リーグ初戦、前年の世界王者イブラギモフ(ソ連)と対戦した21歳の上武は、勝ったものの、試合中に左肩を半脱臼してしまう。強豪アクバス(トルコ)と対戦した2戦目も、またも左肩が外れ、防戦一方でエスケープを取られ0−1。会場に悲鳴が渦巻くなか、必死に反撃し左足タックルから立て続けにバックをとって逆転。奇跡の金に、満場は総立ち。歓喜の嵐が吹き抜けた。
群馬・館林高から頭角を現し、早大2年時に、米国オクラホマ州立大に留学。メルボルン五輪で笹原正三のライバルだったローデリックコーチに厳しく鍛えられた。
アニマルの異名をとったフェザー級の渡辺とは対照的に、米国仕込みのインテリレスラーといわれたが、上武は「科学や合理性なんてとんでもない。米国でも、強いレスラーは皆猛練習している」。道場がオフシーズンで閉鎖される夏季に、ガラスを壊して忍び込みひとりで練習を続けた成果の金メダルだった。

