プロたるもの、やはり道具にはこだわるものだ。去る11月22日の「サンスポMVP」表彰式で、改めてそう気づかされることがあった。MVPに輝いた阪神・原口文仁捕手(24)と、特別賞の同・高山俊外野手(23)を大阪市内のホテルへ招き、ファン約200人の前でトークショーを開催した。
開会前の控室。詰めかけたファンへのプレゼント用で、10枚ずつサインをもらうことになっていた。2人は秋季キャンプを終えた直後。この日も午前中に甲子園のクラブハウスでウエートトレーニングに励んだのちに、多忙の合間をぬって来場してくれていた。記者が恐縮しながら色紙の束をドサッと机の上に置くと原口はニヤリと笑い、こう言った。
「ところで、ペンはアレを用意してくれているんでしょうね…」
ギクッとしたが、やはりそう来たかという印象だった。アレとはZ社の油性ペン「M」(具体名は伏せます)。記者には苦い経験があった。藤浪が入団1年目だった2013年の春季キャンプ中に、インタビュー企画で色紙にシーズンの目標などをしたためてもらう機会があった。「M」でないペンを渡すと、藤浪が「たくさん書いて思ったんですが、『M』の硬さが一番、ちょうどいい気がしますね」。ペン先の感触が、ちょうどいいのだという。
原口らにサインをもらう色紙とペンは、別の担当者が用意してくれていた。だが、受け取って確認すると「M」ではなかった。藤浪の言葉がどうしても頭にあった記者は、原口らを迎えに行く前に文房具店に駆け込み、念のために5本も「M」を買い込んだ。そして、案の定「M」を求めてきた原口に得意げに手渡した。原口は「コレだとうまくかけるんですよね。あとは落ち着いたところで書きたいんです」と、椅子に腰をおろし、快く筆を走らせてくれた。
藤浪の件も、原口の件も、あくまでも個人の感想だ。もっと他のお気に入りの一本がある選手もいるかもしれない。プロ野球選手は駅のホームなどの雑踏でユニホームやボールなどにサインを求められることも多く、実際は環境もペンも選んでいられない場面がほとんど。だが、選手たちが共通して考えてくれているのは「せっかくサインをするんだから、キレイにうまく書きたい」ということ。微妙な色合いのモノにサインをするときは「白いペンの方がいいんじゃないですか?」と聞いてくれる選手もいる。記者は白い油性ペンと、黒の「M」は常にカバンに忍ばせるようにしている。
ファンの方も選手に好みの一本を選んでもらえるように、「M」だけでなく、たくさんのペンを持ってお願いするのもいいかもしれない。(阪神担当・長友孝輔)