忘れることのできない故郷への、母への思いが一気にあふれ出した。名誉市民顕彰を受けたあいさつの壇上。感極まったノムさんは何度も声を詰まらせる。ついにはメガネを外して涙を抑え、最後は泣き崩れた。
「私がプロ野球の世界で元気に存在できたのも、丹後で培ったエネルギーがあったからこそ。心の中には、いつでも丹後、峰山、網野があります」。故郷への感謝の思いを込めた涙のスピーチに、会場は温かい拍手と関係者数人がもらい泣きする感動に包まれた。
「参った。涙もろいなあ。皆さんには何の涙か分からなかったと思うけど」と照れくさそうに話すノムさん。涙の裏には、亡き母ふみさんの存在があった。戦争で早くに父親を亡くしたノムさんにとって、女手ひとつで育ててくれた母親はかけがいのない存在。その母との思い出が故郷にはたくさん詰まっている。
この日、式典に出席する前に両親の墓参りをした。「身に余る表彰を受けるために帰ってきたよ」と母に話しかけた。
「苦労するために生まれてきたような人だった。網野で過ごした18年間、早くお金を稼いで母を楽にしてあげたいとばかり考えていた」。その思いを胸に峰山高からテスト生として南海に入団。数々の勲章を積み重ねてきた。故郷からの顕彰は何よりもうれしかった。
「故郷に帰って老後はのんびり、とも思う。でも、それを決めるのは女房(夫人の沙知代さん)だからなあ」。愛妻の話題を口にして、ようやく笑顔。大成功を収めた今でも、故郷を大切に思う気持ちに変わりはない。(越智健一)
【京丹後市(きょうたんごし)】
京都府の最北端に位置する観光都市で、2004年に峰山町、網野町、丹後町などが合併して誕生した。国指定史跡の「赤坂今井墳墓」や天然記念物「琴引浜」など観光スポットが豊富で、寺社仏閣や天然温泉も多数存在。特産品は松葉ガニ、カキ、米、メロン、丹後ちりめんなど。主な出身者は岡本慎也(前西武)、中邑真輔(プロレスラー)ら。人口約6万人。総面積501.84平方キロメートル。中山泰市長。