風聞は、風のようにどこからともになしに伝えられるうわさのこと。うわさは、ほんとうかどうか疑わしいことを面白半分に言いふらすこと。いまプロ野球はシーズン中だというのに、風聞とうわさがごちゃ混ぜになって、台風シーズンが来たように荒々しい。
台風の“目”になったのは、酷な言い方をすればオリンピックで“惨敗の将”となった星野仙一監督である。“目”は不気味なほど静かだが、球界は星野をめぐる風聞とうわさが後を絶たない。
そんな折、加藤良三コミッショナーが不可解な風を起こした。北京オリンピックの野球を視察して帰国した際、マスコミに感想を求められ、「WBCの監督には威光が必要」と言ったのである。どうしてそんな言葉が出たのか分からないが、多くのマスコミ人は一様に“威光”を星野のイメージに重ね合わせて発言の意図を推察した。遠まわしの言い方は、散々の成績で傷心の帰国をした星野をそっと両手で包み込むような“星野弁護論”ではないか、と筆者らも受け止めた。
加藤コミッショナーを基点にして横に線を引くと、星野のファンでWBC監督を推進している巨人軍の渡辺恒雄会長につながる。この線を底辺にして、ふたつの線を引くとひとりの男、星野につながる“正三角形”になる。三角形は弱いように見えても実際は強い。加藤コミッショナーはWBC監督の任命権者。渡辺会長はコミッショナーの後ろ盾になっている。マスコミに「星野君以上の人物がほかにいるかね」と言ってはばからない。
なにごとにも、「おれの責任」と“公言”している星野がオリンピック惨敗の責任をとり、公の場で、「WBC監督就任」を辞退したとき、初めてこの三角形は崩壊を始める。
生臭い話だが、星野をめぐる風聞とうわさのもうひとつに、「巨人監督就任」がある。でも、それがほんとうで、星野がWBC監督になると巨人はシーズン終了後に例によって「グループ内の人事異動」とかで罪のない原監督が身を引くことになる。「江川事件」のときのようにファンはどっと巨人から離れる。打てない、守れない、走れない、ずうたいばかり大きいチームに若手選手を組み入れ、原監督はペナントレースの目安となる“正念場シリーズ”(8月20−31日)を爽快(そうかい)に戦った。9試合7勝2敗、勝率・778である。
(渋沢良一 前セ・リーグ事務局長)