阪神・矢野2軍監督の掟!「初球から全部振りにいけ」

THE 核心
インタビューに応じた矢野2軍監督。とにかく積極性を求め元気のいい選手を使っていく考えだ

 今、最も気になる人物、話題に切り込む新企画「THE 核心」(不定期)がスタート。このオフ、新たに就任した阪神・矢野燿大2軍監督(48)に直撃インタビュー。掛布雅之前監督(62)の後を受け継ぎ、金本知憲監督(49)を支えるキーマンが本音を語った。 (聞き手・新里公章)

 --みやざきフェニックス・リーグで10月27日に初指揮を執ってから鳴尾浜に帰って秋季練習。ここまでの2軍のイメージは

 矢野2軍監督 「2軍でこうやったらいいんじゃないかなとか、こういうことを取り入れたらいいのかな…という風に思っていた。例えば宮崎では『1イニング3球でアウトになってもいいよ』と言った。積極的にいかないとうまくならないと思っているから」

 --2軍ならできる

 「1軍にいったら、(1番打者が)初球でパーンと打ち上げてアウトになったら、次に回って来る2番打者が例えば若い選手だったら、初球を打ったら怒られるんじゃないかとか、初球を打って詰まったフライとかボテボテのゴロとかならやばいよな、じゃあ見逃そう、というのが自分(の現役時代も)もあった。でも、それじゃうまくならない。だから初球から全部振りにいけと」

 --その理由は

 「気持ちも体も頭も準備していかないとダメやから。ネクストバッターズサークルから次の投手はどんなタイミングで投げるのか、どんな球種を投げてくるのか、スピード感とかタイミングとか、自分で体を作って、よしいくぞという気持ちで打席に入るのと、打つ気なく打席にいくのでは全然違う」

 --走塁も同じ

 「盗塁にしても、(宮崎では)今日は全員いけって言った日もあった。アウトになっていいからって。制限をつけてしまうと選手はいけなくなるから、制限をつけずに。そうしたら、健斗(糸原)とか誠志郎(坂本)が盗塁をして。やっぱりいこう、いこうとなるわけよ。俊(高山)もそうやけど、いこうとしてるところで逆をつかれてけん制されても戻れたりとか。そうしたら、これだけ出れるんやなとか、まだ半歩出れるなとか」

 --積極的な失敗はOK

 「気持ちも前を向くし、やったらダメなことが頭にあるんじゃなくて、やることが自分の中で先にあるから、気持ちもどんどん前に向いて、よしいくぞという形になる」

 --失敗してもいいと言うのは簡単だが、実際はなかなか難しい

 「初球とか、3ボールからでも打ったらいいからって。それは全体ミーティングでも何回も言った。ファームでいうと陽川とかはそういうタイプで、上にいったら代打で1打席しかチャンスがないのに、だいたい初球を見送って、2球目振りにいって、追い込まれて結局中途半端なバッティングで終わる。それやったら、その1打席で結果を出さないとダメなんだったら、振っていく形を身につけていく方が、試合に出るところにつながっていくと思う」

 --慣れもある

 「打ちにいって見逃すのと、ただ見逃すのでは違うと思う。広島とかDeNAの選手が初球を見送るかって。振ってくるやん。俺も捕手をやってたけど、振ってくる選手に対しては考えるわけよ。こっちが(初球から)ポーンとカウントを取れた時は、何かリズムに乗りやすいと感じていた。初球でカウントを取りました、次、追い込まれるのが嫌やから振ってくるでしょう、とか。例えばこいつはアウトコースが強いから、ちょっとゾーンを広げるためにインコースにいって幅を効かせとこうかとか。こっちのペースになりやすい。でも、例えば広島の丸とかはガンガンくるから。逆に投手もプレッシャーを感じて、甘く入ったらあかんというところで甘くなったりとか。振ってくると分かってるから。投手も振ってくると思って投げるのと、初球でカウントを取れるのとでは違うと思う」

 --監督が言うことが大きい

 「許してやらないと選手が動けないから。あかん、あかんでは、選手は振れない」

 --投手について。1軍で打たれる投手はこういう感じ、というのはまだ若い選手には分かりづらい

 「いい結果を出すばかりじゃなくて、どうすれば自分が1軍でいいパフォーマンスを出せるのか、通用するかを考えさせたい。投手だったらクイックにしても1秒25ぐらいは切ってもらわないと。でもブルペンでそういうことはあまり練習しない。(ゴルフの)打ちっぱなしと一緒で気持ちよく投げるんじゃなくて、気持ち悪く投げてほしい」

 --気持ち悪く?

 「理想としては、1軍でもそのままの形で勝負はできますよ、というのがいいと思う。これもできない、あれもできない、投球パターンのモーションが一緒で盗まれる…ではね。そういうのも普段から気持ち悪くね、こういうパターンが多いからこうしようとか、ブルペンで気持ち悪く投げてもらった方がいい。下柳にしても、昔の星野伸之さん(注)にしてもそうだけど、首の動きにしても左投手で三盗されやすいから余計に動かしたりさ。勝てる人はその差がないと思っていた」 --メンタル面の指導は

 「一番は積極的。積極的じゃないと、何も前に向かないと思うから。何回も失敗するのはプロとして良くないと思うよ。でもちょっと許す気持ちも持ちながら、どんどんやれ、と。全体練習が終わった後でも、『コーチ、こんなことをやりたいんです、やらせてください』というのが理想」

 --1軍作戦兼バッテリーコーチの経験がある 「めっちゃ勉強になったよ。もちろん今の監督(金本監督)がどういう野球をしたいとか、こういう時はこういう風にしてほしいんやな、とか。走塁ってそういう風にやるんだとか。走塁への意識はもちろん俺より監督の方が高い。そういうところを求めているんやな、と」

 --1軍が今こういうタイプの選手がほしい、とか理解できる

 「現役時代から野球観のズレはないと思う。同じプレーで何してんねんと思うし、あれはいいプレーやな、というのは合うと思うから。そこら辺はまあ、そのままやっていきたい。小さなことで言えばベンチで声を出すとか、現役時代から大事にしていたところもあったと思う。今の監督でも、もちろんそういうことを求めている」

 --起用法の考え方も似ている

 「俺らも元気ないヤツとあるヤツでどちらを使うかと言ったら、絶対に元気のあるヤツを使う。選手に分かってもらう意味でもそうする。特に2軍だったら、ちょっと下手くそでもね。そういうのがすごく一緒だから」

 --指導者3年目

 「コーチ業って、もっとできるのかなと思っていた。1年目なんか正直、こんなできへんのやな、俺、何ができるんかなと思った。周りのコーチの経験値が高いから。高代さん(作戦コーチ)とか平田さん(チーフ兼守備走塁コーチ)は、何年もやっているから。気付きが早いわけよ。俺が思っている時にはもう選手に伝えている。2年目はちょっとは変われたかなとは思うけど。この2年というのは大きかった。知ってから(2軍監督を)できるのは全然違う」

 --ソフトバンクは毎年若い選手が出てくる。矢野2軍監督が一番に目指すところは、2軍から生きのいい選手がたくさん出てくるところ

 「わかりやすいけどね。それが。でも俺は全員を1軍にあげる力は、俺にはないからね」

 --もちろん競争

 「だからもちろん野球をうまくさせてあげるプラス、2軍ってやっぱり、俺も偉そうにいうけど、人間的な教育もしていかないといけないわけじゃん。全員を1軍に上げられないから。だから、戦力外になって社会に出ていく選手もたくさんいる。人前でしゃべるとか、基本的な部分を作りたい。あいさつはもちろん。気づきであったり、そういうところはしっかりさせていかないと、結局後々苦労する。(選手の)平均寿命って6年とか7年でしょ? 18歳で入ってきて25歳で社会に出て、そこから野球界は年上やから何々さんっていってくれるけど、社会に出たら1年目のペーペーなわけでしょ」

 --2軍の選手は半分以上がそういう進路になる

 「理想すぎるかもしれないけど、タイガースでやっていたから何とかなっているなって思ってもらえるような環境、場所じゃないと、あいつ野球を辞めてああやったでっていうのは少なくしたいやん。同じユニホームを着るねんからさ」

 --18歳で入ってくる高卒選手はここが最初の社会。知らないことも多い

 「高校生から入ってきたにしろ、お金ももらうわけじゃん。勘違いもあるかもしれない」

 --掛布前2軍監督はファンサービスを強化して環境を作った。矢野2軍監督のファンサービスのアイデアは

 「俺、自分で言うのもなんやけど、そこはもともとあるで。タイガースの選手がもともとサインせーへんかっただけで、俺キャンプでもずっとサインしていたし。昼間のキャンプでの土日のサイン会も俺が提案した。やっぱり俺らってプロやから。ファンの人にプラスアルファ喜んでもらわないあかんと思うのよ。サインするだけがファンサービスとも思っていないし、捕手にはチームの勝利に貢献できるように頑張りますとか、そんなしょうもないヒーローインタビューはするなっていっていたから。あいつ応援したいなとか、あいつ見たいなと思ってもらえるようになってほしいし」

 --2軍監督自身も

 「勝ちゃいいっていうのはもちろんそれはそうなんだけど、そこによりプラスアルファの部分があったほうが、より愛してもらえる。『矢野! 矢野!!』と呼ばれて無視するのと、「矢野!!」と呼ばれてぱっと目を合わすだけでもファンの人は違うわけだから。さらに手をあげるだけでも、もっと喜んでもらえるわけやし、さらにどこから来たの? と聞いたら、もっとうれしいことになる。だから、そういうことをできたらなと」

 (注)下柳剛投手は矢野2軍監督と同じ1968年生まれの同級生で、2003年に日本ハムからトレードで加入し、バッテリーを組んだ。前オリックス2軍投手コーチの星野伸之氏は阪急、オリックスで活躍した後、フリーエージェントで00年から阪神で3年間プレーし、一緒にプレーした。

矢野 燿大(やの・あきひろ)

 本名・矢野輝弘。元捕手。1968(昭和43)年12月6日生まれ、48歳。大阪府出身。桜宮高から東北福祉大を経て、91年D2位で中日に入団。98年に交換トレードで阪神に移籍。正捕手として2003年、05年のチームのリーグ優勝に貢献。10年に引退。16年から阪神の作戦兼バッテリーコーチに就任。このオフから同2軍監督に就任した。通算1669試合に出場、打率・274、112本塁打、1347安打、570打点。ベストナイン3度、ゴールデングラブ賞2度受賞。08年北京五輪日本代表。右投げ右打ち。1メートル81、77キロ。

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