炸裂「田南部スペシャル」4強でメダルへ驀進!
出た、決まった、勝負技! レスリング男子フリースタイル55キロ級1次リーグ初戦で、気鋭の田南部力(29)=警視庁=がアトランタ五輪銀、シドニー五輪金の難敵ナミク・アブドゥラエフ(33)=アゼルバイジャン=を5−2の判定で破った。あみ出した必殺技“田南部スペシャル”が早々にさく裂。実力者に完勝して進んだ決勝トーナメント1回戦にも勝利して、準決勝進出。4強入りを果たした。アテネを最後の闘いの場と決めている男子のエースが、お家芸の伝統を守ってみせる。〔写真右:バックに回った田南部(右)が、アブドゥラエフの足を曲げて“田南部スペシャル”を狙う。きまったら最後…=共同。同下:準決勝進出を決め、勝利をコールされる田南部はホッとした表情=撮影・川村寧〕
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防げるものなら、やってみろ。出し惜しみする気はない。これが頂点を狙う必殺技だ。田南部の気合が、1次リーグ初戦からスパークした。
1分29秒。アブドゥラエフの右足を折り曲げると、両ももで挟みこんでローリング。前回五輪の金メダリストが苦悶の表情を浮かべながら1回転する。いきなり“田南部スペシャル”で2点を先制。その後も2回のローリングを決めて完勝だ。観客席の家族に向かって右手を挙げた。
「自信はありますよ。金メダルしか狙っていませんから」。豪語してマットへ立った。強敵アブドゥラエフには過去2勝1敗と勝ち越しており、4年ぶりの対戦となった6月のドイツ国際でも5−0と完封勝ち。そのときに初披露した新技は今回も効果絶大だった。
この五輪のために開発した“田南部スペシャル”だ。インド人選手の技をヒントにベースにしたもので、2度五輪代表となった和田貴広コーチ(32)と共同開発。一度カッチリきまったら、逃れるすべはない。「相手の太ももがブチブチいう。きまりすぎると、審判によっては止める人もいる」という恐怖の武器。
決勝トーナメント1回戦でも、攻撃の手は緩めず、イケイケモード。金孝燮(韓国)を10−0と圧倒してテクニカルフォール勝ち。勢いに乗って準決勝、4強入りを果たした。五輪メダリストや世界王者を倒す力がありながら、格下の選手にコロッと負けるなど、ムラッ気の多い性格。おかげでこれまでビッグタイトルに縁がなかったが、今回は目の色が違う。「相手がだれでも攻め抜くつもり。試合では1秒でも無駄にしたくない。自分のレスリングをすれば負けない」。試合で使うハンカチ、シューズにも家族全員の名前とメッセージが書き込まれている。
29歳。シドニー五輪が10位に終わった後、アテネで金を獲って引退すると妻・千穂さん(28)に宣言した。5歳の長女・夢叶(ゆめか)ちゃんからは「ちっくん、最後くらい勝てよ」とキツい激励を授け、折り紙でつくった金メダルを用意してくれている。なによりの“勲章”が待っているから、パパとして2人の子供の目の前で負けるわけにはいかない。毎年王者が入れ替わる激戦階級だが、あと1勝で、まずはメダル獲り。もう、表彰台の真ん中しか見えない。
(牧慈)
| 田南部 力(たなべ・ちから) 1975(昭和50)年4月20日、北海道・岩内町生まれ。29歳。岩内クラブでキッズ・レスリングを始め、岩見沢農高時代は2年連続インターハイ王者。日体大時代の96年に全日本選手権初優勝し、98年警視庁へ。階級は警部補。00年シドニー五輪10位。02年世界選手権6位、釜山アジア大会銀メダル。03年世界選手権7位。近年は世界王者と互角の対戦が続いている。1メートル61。家族は妻・千穂さん(28)、長女・夢叶ちゃん(5)、長男・魁星くん(2)。 |
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田南部スペシャル 得意とするアンクルホールドとまたさきをミックスさせた合体技。グラウンドで相手の背後に回り、相手の右足を半分折り曲げ、自身の両またでキッチリ挟み込み、かためる。そこで、いっきにローリングする。相手の足首と太ももを同時にきめる技。 |
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★そのとき★
観客席から「ガンバレー」の二重奏が響いてきた。長女・夢叶ちゃん(5)と長男・魁星くん(2)が懸命の声援を送る。この日は早朝から試合会場入りする田南部を待ち、抱きついて、父にエネルギーを与えた。妻・千穂さん(28)は「私はまだやってもいいよと言ってるのに、本人はアテネで区切りをつけると決めているんです。金メダルのためにやってきたので、力を出し切ってほしいです」と準決勝進出に笑顔。
フリースタイル 攻防が上半身に限定されているグレコローマンスタイルに対し、全身を使っての攻防ができるレスリングのスタイル。19世紀末に誕生し、グレコローマンより歴史は浅いが、現在の競技人口はフリースタイルの方が多い。アテネ五輪から正式種目となった女子レスリングはフリースタイルのみで実施された。タックルを中心とした多彩な技とスピードが特徴。 |
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★池松は4強目前でスルリ
手中にあった勝利が逃げた。男子66キロ級の池松和彦(日体大助手)の準決勝進出はならなかった。逆転負けを喫するとマットをたたいて悔しがり、「すみません…」と控室に消えた。決勝T1回戦のスピリドノフ戦。2−0のリードで延長へ突入。延長開始早々に1点を返された。その直後に脚を持たれると、池松の体が宙で回った。これで2点を失い、勝敗が決した。昨年の世界選手権で3位に入った実績を持つ24歳。「自分のかたちにできれば」と自信を持って臨んだアテネの舞台で、不完全燃焼…。
★横山は1次敗退
男子84キロ級の横山秀和(秋田商高教)は1次リーグで敗退。初戦で1−1の接戦を演じたが、最後の1分間で7点を失った。「後半に感覚が鈍った」。スタミナが切れていた。2戦目は大差の判定勝ち。2大会ぶりの五輪。アトランタ五輪後にグレコローマンに転向したが、シドニー五輪出場を逃した。アテネには再びフリーで挑み、教員と競技生活を両立させてきた。日体大時代に、現在プロの格闘技で活躍する桜庭和志や藤田和之を破った男も、今回の五輪でひと区切りをつける。「もう少し若ければ」。33歳の挑戦は終わった。
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