笹本“誤審”に泣く、メダルに届かず5位

笹本睦 大金星が逃げた! レスリング男子グレコローマン60キロ級決勝トーナメント1回戦で笹本睦(26)=綜合警備保障=が、「疑惑の裁定」の末、五輪2連覇中だったアルメン・ナザリャン(30)=ブルガリア=に3−5で敗れた。ナザリャンの反則行為が、確認に使われたビデオ映像の死角に入る不運も重なり、“誤審”ともいえる無念の結末。富山英明監督(46)は国際連盟に問題の場面を撮影したビデオと、疑問を呈する文書を提出する意向だ。笹本は5、6位決定戦で判定勝ちして5位、前回のシドニー五輪(8位)に続く入賞となった。〔写真:グレコ60キロ級準決勝で敗れた笹本は、人目をはばからず涙を流した=AP



 観客席から投げ込まれたコーラのびんが飛び交う。大ブーイングも鳴り止まない。マット上でひざをつき、嗚咽するのは、本当なら勝者となるはずの男だった。笹本だ。試合終了間際。五輪、世界選手権ともに2連覇中の王者ナザリャンをリフトしたシーンは、語り草になるはずだった。

 「なんでだよ!」

 笹本の慟哭(どうこく)が響き渡った。2−3とリードされた第2ピリオド。試合終了まで残り約10秒。シドニー五輪の初戦、01年世界選手権の準々決勝でも敗れた強敵を3度目の対戦で初めて持ち上げ、こん身の俵返し。決まった! 米国人の祖父から受け継いだ国際規格のパワーの炸裂。レフェリーは笹本の2点を示し、4−3で逆転勝利を示した。

 ところが、ナザリャンは、巧みに左手を笹本の太ももに当て、防御。笹本も浴びせ倒されるかたちで背中から落ちていた。最高責任者であるチェアマンがビデオ映像を確認。上半身の攻撃しか許されていないグレコローマンでは、明らかな“反則行為”だったが、ビデオでは不運にも死角になっていたのだ。笹本がポイントを失った。

 試合中に嘉戸洋コーチがチェアマンにつめより、日本協会・福田富昭会長は日本スタッフが撮影した証拠のビデオと審判員の技術向上を訴える“抗議文”を提出したが、現行ルールでは一度下された判定が覆ることはない。だが、準決勝で力なく敗れ去ったナザリャンの姿が笹本戦で受けた衝撃を物語っていた。

 「結果がすべて…。審判がとってくれなかったら意味がない。でも、ナザリャンとはもう1回やりたい。世界チャンピオンと五分に闘って自信がつきました」

 家族がメッセージと似顔絵を描いてくれたハンカチで涙をふくと、笹本は観客席に駆け寄った。「よくがんばったね」。あたたかい一言が待っていた。元レスリング女子アジア王者の妻・千恵さん(27)=旧姓沢田=はわかっていた。2人の息子、泰樹くん(4)と昴鳴くん(1)にも伝わったはずだ。パパは世界王者より強かったんだよ、と。

牧慈


 ◆富山英明監督 「(上半身のみの攻防で争うグレコローマンで)ナザリャンの左手は明らかに右足を触っている。高度な反則。今後のためにビデオを添え、国際連盟に文書を提出する。五輪3連覇がかかっていて、欧州全体がヒーローをつくりたいという雰囲気もあったのではないか」

VTR

 試合終了まで残り約10秒。笹本がローリング2得点。さらにリフトし、右後ろに俵返し。そこで、ナザリャンの左手が笹本の軸足の右太もも裏を叩き、体勢を崩してあお向けに倒された。レフェリー(トルコ)とジャッジ(モンゴル)は反則をとったが、マットチェアマン(米国)が異論。ビデオで確認したところ、撮影角度からではナザリャンの左手の動きが確認できず、審判団は反則判定を取り消した。笹本の投げ技が失敗した後の体勢がナザリャンのニアフォールとして相手に2点が。笹本は残り3秒で1点を得たが、3−5で敗れた。


ルールと抗議

 国際レスリング連盟(FILA)競技規則(2002年改定)・第10章「抗議」第66条「抗議」による。試合に関するいかなる抗議もすることができない。試合終了後の結果変更は決してない。(中略)。FILA会長あるいはFILA審判委員会がマットチェアマンとマットコントローラーの職権の利用により試合結果が著しくゆがめられたことを認識した場合、FILA理事の同意の下でビデを検証することができる。そのような状況が存在する場合、国際審判委員会の規則の規定にしたがって当該審判員を降格あるいは免職することを決定することができる。


★フリーでメダル死守だ

 レスリング男子は27日からフリースタイルが出陣。初日に期待の2選手が登場する。

 55キロ級の田南部力(警視庁)は予選リーグ4組の初戦でシドニー五輪金メダルのナミク・アブドゥラエフ(アゼルバイジャン)と対戦する。いきなり強敵との対戦だが、今年開発したアンクルホールドの変形“田南部スペシャル”を使い、6月のドイツ国際決勝では圧勝している。

 田南部は昨年2月のデーブシュルツ国際では02年世界王者のレネ・モンテロ(キューバ)に勝ち、世界選手権では01年世界王者ゲルマン・コントエフ(ベラルーシ)を破っており、今回、金メダル候補に躍進している。66キロ級の池松和彦(日体大助手)も昨年世界選手権の銅メダルの実力者。全階級でメダルを獲得した女子に続く活躍がなるか、注目だ。


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