【クレー射撃】音大卒の“女性スナイパー”がメダル“標的”に

井上恵 クレー射撃歴7年で初めて五輪の出場権を獲得した井上恵(31)=神奈川県協会。武蔵野音大ではホルン奏者として名をはせながら、大学卒業後にクレー射撃を始めた異色の選手だ。音楽家という肩書からはイメージできないド根性を持ち合わせている。〔写真:ホルンを銃に持ちかえて、初の五輪に臨む井上恵=撮影・佐久間賢治

 音大卒の経歴と外見だけなら、育ちのいい“射撃界のプリンセス”。標的を捕らえる視線、しっかりした口調には芯の強さがにじみ出る。楽器を銃に持ち替えて7年、井上がアテネ五輪の出場権を獲得した。

 「音楽は親に与えられたもの。自分から飛び込んで、ここまでやれたことはなかった」

 中学校の音楽教師、母・真理子さんの影響で、3歳からピアノを習い始めた。神奈川・相模原市の上溝中1年で金管楽器のホルンと出会い、武蔵野音大ではオーケストラの一員として活躍した。大学卒業直後の1996年に、運命が変わった。何気なくテレビを見ていたとき、クレー射撃歴3年でアトランタ五輪出場を決めた吉良佳子が写し出されていた。

 「ゲームセンターで射撃ゲームをやったことがあって、あの実写版かなと始めたんです」。約100万円のホルンに対し、初めて手にした銃は30万円。しかし、消耗品のクレー標的と銃弾は1日に4万円以上、射撃場の使用料や遠征費もかさむ。銃だけは両親が購入したが、活動資金は自己負担だ。今は協会から月5万円の援助が出るが、練習後にはパソコンで事務を行う“在宅勤務”で資金難を補っている。

 自分の決めた道を信じ続けた。2000年のシドニー五輪国内予選で敗れ、音楽と射撃の違いに気付く。「音楽は自分の気持ちを出すけど、射撃ではダメ。成功しても失敗しても、感情を抑えなくちゃいけない」。標的を狙う集中力はホルン演奏で培い、さらに何事にも動じない精神力が加わった。冷静沈着な“女性スナイパー”が、今度は表彰台で喝さいを浴びる。

 
★井上 恵(いのうえ・めぐみ)
 1973年(昭和48年)4月27日、神奈川・相模原市生まれ、31歳。同市立上溝中の吹奏楽部でホルンを始め、東海大相模高、武蔵野音大と音楽の道を進む。96年12月にクレー射撃の免許を取得し、翌年から本格的に競技に取り組む。今年3月のアジア選手権の女子ダブルトラップで優勝し、アテネ五輪の出場権を獲得した。身長1メートル72・4、62キロ。血液型A型。

◆アテネ五輪・射撃日本代表◆
__種目__ 氏名 所属
▼男子
ライフル 柳田   勝 自衛隊体育学校 34
ピストル 中重   勝 広島県警 40
田沢 修治 自衛隊体育学校 36
▼女子
ライフル 三崎 宏美 日立情報システムズ 27
ピストル 福島実智子 国友銃砲火薬店 40
稲田 容子 YOKO・INADAスポーツ射撃ク 34
小西ゆかり 自衛隊体育学校 25
クレー 竹葉多重子 愛媛県協会 38
井上   恵 神奈川県協会 31

★世界の勢力

 ライフル射撃の男子は、東欧勢が中心になる。ロシア、チェコ、スロバキア、スロベニアなどの強豪が、世界ランク上位に君臨。イタリア、ドイツ勢が続く。女子はモンゴル、中国、ロシアがトップレベル。日本ではライフル女子の三崎宏美に、メダル獲得の期待がかかる。クレー射撃は欧州勢が中心だったが、ここ数年はアジア勢が台頭。男子はノルウェー、イタリア、クウェート、中国の争い。女子は中国と東欧勢がトップレベルだ。

★五輪日本史

 国内初のライフル射撃大会は1924年の関東学生射撃大会で、翌25年に日本ライフル射撃協会の基となる学生射撃連盟が創立した。五輪には52年のヘルシンキ大会から参加、84年ロサンゼルス大会のラビッドファイアーピストルで蒲池猛夫が金メダルに輝いたほか、銀を1つ、銅を3つ獲得している。日本クレー射撃協会の設立は1949年だが、全日本クレー射撃選手権は猟友会の主催で22年から行っていた。五輪には56年メルボルン大会から参加し、92年バルセロナ大会では渡辺和三がトラップで銀メダルを獲得した。

★ルール

 ライフル射撃はライフル種目とピストル種目に分かれる。ライフル種目は立った状態、伏せた状態、ひざをついた状態で40発ずつ(女子は20発ずつ)を射つ50メートル3姿勢、立った状態のみで60発(女子は40発)を射つ10メートルエアライフル、伏せた状態のみで60発を射つ50メートルライフル伏射(男子のみ)。ピストル種目は競技によって使用するピストルが変わり、男子は50メートルフリーピストル、25メートルラピッドファイアピストル、10メートルエアピストルで60発ずつを射つ。女子は60発ずつの25メートルスポーツピストル、40発ずつの10メートルエアピストルが行われる。

 クレー射撃は男女ともに3種目。トラップは石灰を焼き固めたクレー標的が1つ、15メートル先の地下からランダム左方向に放出される。割れた枚数で競う。ダブルトラップは、1度に放出するクレー標的が2枚になる。スキートは半円状の射台に6選手が立ち、左から反時計回りに一発ごとに移動して射撃を行う。


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