谷亮子、連覇へ完全隔離の極秘“密室調整”

谷亮子 左足腓骨(ひこつ)筋けんを痛めているアテネ五輪柔道女子48キロ級代表の谷亮子(28)=トヨタ自動車=が4日、東京・講道館での全日本合宿に参加したが、他の代表選手とは別の道場を使用し、非公開での極秘練習となった。重傷からの超人的回復を目指すが、五輪2連覇のために14日の本番まで前代未聞の完全隔離作戦が敢行される見通しで、孤高の“密室調整”が、命運を左右する。〔写真右:合同練習前のあいさつには姿を見せた谷だが、練習姿を公開することはなかった=撮影・斎藤浩一。同下:“爆弾”となる左足首。サポーターが痛々しい=撮影・斎藤浩一

 ドスンッ!畳に叩きつけられる音。静寂に響く、谷の裂ぱくの気合の声。猛げいこをうかがわせる空気が外に漂ってきたが、道場の扉は2時間、かたく閉ざされたまま。講道館4階。大道場で全日本女子が報道陣に練習を公開するなか、谷は練習開始のあいさつを済ませると、廊下を隔てた別の道場へ向かい、報道陣シャットアウトの極秘練習を続けた。

 「打ち込み、投げ込み、乱取りと全部やった。いろんな技をかけて試したが、技のキレもあったし、かけられない技もなかった」

“爆弾”となる左足首 軽量級担当の出口達也コーチ(42)によると、患部をテーピングで固定し、この日から乱取りを開始したという。故郷・福岡から帯同した練習パートナー、原久美子さん(27)以下5選手、これに全柔連が用意した高校生1人だけが道場に入った。谷は練習を終えると“チームYAWARA”に護衛されて、柔道着のまま講道館を脱出。またたく間にマイクロバスで走り去った。

 まさにYAWARAのカーテン。他の五輪代表6選手とは別待遇だ。練習前の記者会見も谷だけは単独で応じ、左足を痛めてから初めて公の場に姿を現し、壮絶だったけがとの戦いを明かした。

 「足をつけることもできず、おんぶしてもらう日が10日間続いた。このけがを理由に、アテネをあきらめられたらどんなに楽かと思いました」

 12日、大阪での合宿中に畳と畳のすき間に左足親指を挟んで転倒。くるぶしの外側だけでなく、内側まで内出血で紫色に変色。「左足腓骨筋腱の損傷」と診断、全治1カ月とされて福岡市の実家に戻った。消炎効果のある馬刺しを患部にはり、カイロプラティック治療を受け、ようやく1日から柔道着を着て打ち込みを開始したという。この間、7月24日の日本選手団結団式なども欠席して姿を隠し続け、調整遅れが心配されていた。

 吉村和郎・女子監督(53)は「けいこに集中させるため、谷を追いかけるのはやめてほしい」と、今後の取材拒否を通達。出口コーチも「これからも非公開でやりたい」と、8日のアテネ入り後も極秘練習させる方針を示した。「けがしたことで、より気合が入りました。治っても治らなくても畳の上に立ちます」。極めて異例となる密室での最終調整。数々の負傷をはねのけて戦ってきた柔道の申し子は、五輪連覇の夢をあきらめない。

 次に柔道着姿を見せるのは、14日のアテネ五輪本番の舞台。夫の野球代表・谷佳知と誓った夫婦金メダルを獲りにいく。

★谷亮子に聞く★

 −−現在のけがの状態は

 「腫れと内出血も治まり、全国からたくさんの人にお便りや電話をいただき、気持ちは充実しています」

 −−(夫の)谷佳知選手も心配したのでは

 「最初に報告したときはとてもびっくりしていましたけど、主人からも治療のアドバイスを受けました。いっしょにアテネに行ってお互い最善の結果を残そうと、ずっと言い合っています」

 −−練習はどの程度できるのか

 「3日前から柔道着を着て打ち込みと投げ込みをやっています。けいこしながら治します。まだ70%くらいでしょうか」

−−金メダルの自信は

 「7歳からもう20年以上柔道をやっているので、ここ数週間練習をやっていなくても自信はあります」

★谷の負傷史★

◆91年11月 アジア選手権初戦で右足関節外側じん帯損傷。全治3週間の痛みに耐えて3位
◆95年4月 練習中に右ひざじん帯を部分断裂。18日後の全日本選抜女子体重別で優勝
◆同年12月 福岡国際女子で右ひざ関節ねん挫・半月板損傷を負い、復帰まで2カ月
◆99年7月 腰痛を発症。9月には右太ももを痛めながら、10月のバーミンガム世界選手権で4連覇
◆同年12月 福岡国際女子で左手小指を骨折と腱断裂
◆00年3月 右手薬指じん帯を断裂。8月には左足ふくらはぎ打撲も、9月のシドニー五輪で優勝
◆01年7月 練習中に右ひざ内側側副じん帯断裂の重傷を負ったが、16日後のミュンヘン世界選手権で5連覇
◆03年7月 左足親指が化膿。切開して膿を抜き、9月の大阪世界選手権では6連覇

★柔道でのけが克服で金メダル★

 谷も負傷を乗り越えてシドニーで頂点に立ったが、84年ロサンゼルス五輪では無差別級の山下泰裕が、2回戦で軸足の右ふくらはぎの肉離れに見舞われながら勝ち進み、決勝でラシュワンを横四方固めで破って金メダル。直前の負傷を克服したのは92年バルセロナ五輪の71キロ級古賀稔彦。現地で吉田秀彦との練習中に左ひざ内側側副じん帯を損傷したが、11日後に金メダルを獲得している。

★柔道女子のスケジュール★

 講道館での全日本合宿は6日まで。7日に男子軽量級やバレーボール女子などと同じ成田発の航空機で出発し、フランクフルト経由で8日にアテネ入り。その後は全柔連が独自に確保しているアテネ市ビロナス地区の体育館で最終調整を行う。13日の開会式は欠席予定。谷が出場する女子48キロ級は柔道チームの先陣を切って、男子60キロ級と同じ14日に行われる。

アテネ五輪柔道女子日程
試合日 階級 日本代表選手(所属・年齢)
8月14日 48キロ級 谷亮子(トヨタ自動車28)
15日 52キロ級 横沢由貴(三井住友海上23)
16日 57キロ級 日下部基栄(福岡県警25)
17日 63キロ級 谷本歩実(コマツ23)
18日 70キロ級 上野雅恵(三井住友海上25)
19日 78キロ級 阿武教子(警視庁28)
20日 78キロ超級 塚田真希(綜合警備保障22)

★上野雅恵は順調、順調

 金メダル候補の1人、2度目の五輪に挑む女子70キロ級の上野雅恵(三井住友海上)も順調な練習を続けている。「内容よりも、とにかく勝ちたいです。五輪に向けて調子は上がってきてる。金メダルを目指します」。世界選手権2連覇中の女王だが、おごることはない。五輪用の柔道着も18日の本番まで袖を通さず、新鮮な気持ちで畳に立つ。

★阿武教子“三度目の正直”の金だ

 女子78キロ級の金メダル候補・阿武教子(警視庁)が“三度目の正直”に向けて、自信をみせている。過去2度の五輪は表彰台にも上がれない惨敗だが、世界選手権4連覇のプライドをかきたてる。「世界チャンピオンとしてアテネで勝ちたい。シドニーではマイナス思考だったけど、今はやってやろうという気持ちです」。今年からは5歳上の兄・貴宏(警視庁)が専属コーチに。心強い“援軍”がアテネにも帯同する。


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