【柔道】井上康生はメダルなし…敗者復活戦でも敗れる

 柔道男子100キロ級の井上康生(綜合警備保障)は敗者復活2回戦でミラリエフ(アゼルバイジャン)に3分4秒、大内返しで一本負けし、メダル獲得はならなかった。井上は4回戦でバンデルギースト(オランダ)に4分48秒、一本背負い投げで一本負けし、敗者復活戦に回っていた。〔写真:男子100kg級4回戦 オランダのE・ファンデルヘーストに背負い投げで敗れた井上康生=アノリオシア・ホール(共同)



 不動の王者にも死角があった。柔道界のエースで日本選手団主将。「勝って当たり前」という重圧がかかった井上康生が五輪2連覇を逃した。順風満帆に見えた柔道人生。だが、内面では自らの甘さやもろさと格闘していた。

 無残な姿ではいつくばっていた。6月中旬、福岡市の福岡大柔道場。全身がけいれんし嘔吐(おうと)も繰り返す。

 「おまえがここに来たいと言って来たんだろ。それなら、やれ」。竹刀を手にした高野裕光柔道部監督(44)が容赦ない言葉を浴びせる。井上選手はむっくりと起き上がると、無言で練習を再開した。

 フランス合宿から帰国した直後で体調は最悪だったが、それでも自ら進んで福岡大に向かった。シドニー五輪のときに担当コーチだった高野監督は「康生はケツをたたいてやらないと駄目なんだ」と手厳しい。

 本人は精神的な弱さを決して認めようとしないが、父の明さん(57)の見方も高野監督と同じだ。

 「末っ子で母親っ子。本質は甘ったれだ。自分でもそれが分かっているからこそ、あえて有無を言わせずに追い詰めてくれる人のところに向かったんだろう」と話す。

 シドニー五輪で金メダル。世界選手権は3連覇。世界の頂点に君臨する男には、周囲も遠慮が働く。「厳しいことを言ってくれる人はそういない」と今回、付き人も務めた兄の智和さん(28)。孤独な戦いだ。だからこそ、高野さんや、今でもビンタを飛ばすことがある父に指導を仰ぐ。

 昨年、あるインタビューで頂点に立ち続ける谷亮子について聞かれてこんなことを言った。「どういう精神構造なのかな。ゆっくり話を聞きたい。真剣にそう思う」

 けがが重なった今年春。弱音を吐かない男が、東海大大学院でともに研究に取り組んだ藤井良孝さん(26)に「つらいときもあるでしょ」と聞かれ「まあ、ありますけど」と思わず漏らした。しかし、すぐに「でも頑張ります」「大丈夫です」と自分に暗示をかけるように何度も繰り返した。

 「シドニーは若さと勢いで取った金。今回こそが康生の真価が問われる五輪」と話していた明さん。その言葉がいま重くのしかかっているに違いない。(共同)



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