【柔道】上野世界最強だ! 五輪も金で目指すは「女井上康生」
すごいぞ、柔道ニッポン! 金メダルラッシュだ! 女子70キロ級の上野雅恵(25)=三井住友海上=が、金メダルを獲得。今大会の柔道日本女子では、48キロ級の谷亮子、63キロ級の谷本歩実に続く3個目の金メダル。柔道女子で初めて1カ国3階級制覇を達成した。また、日本柔道の今大会の金メダルは、男女合わせて5個。五輪で最多だった84年ロサンゼルスと00年シドニー両大会の4個を上回る史上最多となった。〔写真右これが女王の力だ。決勝で上野=右=は豪快な袖釣り込み腰を決め、金メダル=撮影・塩浦孝明。同下:表彰台から日の丸を見つめる上野。スランプを乗り越え、頂点に立った=撮影・塩浦孝明〕
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こん身の袖釣り込み腰が、決まった。指導を取られてリードされた3分10秒。身長で約20センチも大きいボスを、豪快に投げた。やった。金メダル。上野の目からは、すでに大粒の涙があふれだしていた。
「すごく緊張していた。3回戦まで全然駄目だったから。準決勝から気持ちを切り替え、自分の柔道を出していこうと思った」。2度目の五輪の舞台で、ようやくヒロインを演じることができた。1回戦は3分36秒で抑え込み、2回戦は優勢勝ちとてこずったが、最後は昨年9月の世界選手権優勝者の力を見せつけて、女王の座に就いた。
長い道のりだった。00年シドニー五輪は3回戦で敗退。落ち込んだ。同五輪後の年末年始には旭川市の実家の道場に帰らず都内のチームの寮で、空虚な新年を迎えた。上野家恒例の初詣で&元日けいこを欠席したのは、後にも先にもこのときだけだった。
01年ミュンヘン世界選手権で優勝した後も上昇気流に乗れない。生まじめで考え込むタイプ。「シドニーは大きな経験だった。あの素晴らしい舞台にもう一度立ちたい」。そのためには何をすべきなのか…。もう一度、自分を見つめ直した。油断するとすぐ体重が減る体質は栄養士と相談して改善。「年に4、5回はひいてしまう。大事なときに風邪をひかないように」と冬場はマスクをし、うがいを欠かさない。体調管理にも人一倍気を使うようになった。
昨年の大阪世界選手権。オール一本勝ちでV2を達成し、完全復活。アテネでの金メダル取りへ向けて走り始めた。
柔道教室を開く父・法美(のりみ)さん(51)、母・和香子さん(48)に小学1年から指導を受けた。2人の妹も畳の上に立ち、柔道一家の「上野3姉妹」と呼ばれた。「雅恵は足は速いし、鉄柱を腕だけですいすい登った。この子は伸びる。トップを目指そうと“厳しくひいき”した」と法美さん。上の学年の男子と対戦させ、大会で優勝しても内容が悪いと容赦なく鉄けんを振るったという。「道場で毎日泣いていた」上野は、父の教育で培った強い精神力をばねに、スランプを脱し、世界の頂点に立った。
「笑わないでくださいね。理想の柔道は井上康生クン。堂々としていて、技は一瞬。私にはできないけど、近づきたい」。大きな目標は達成したが、ここがゴールではない。メダル量産の柔道ニッポンをけん引する新エースの志は高い。
(臼杵孝志)
★上野 雅恵(うえの・まさえ)★
◆生まれ&サイズ 1979(昭和54)年1月17日、北海道旭川市。25歳。1メートル61
◆経歴 柔道は小学1年から始め、父・法美さん(51)が師範を務める誠心館柔道場大雪山で学ぶ。旭川南高→三井住友海上。得意技は大内刈り、寝技。左組み。四段
◆主な成績 99年世界選手権5位。01、03年世界選手権優勝。01、03年全日本選抜体重別優勝。99年全日本女子選手権2位。01、02年全日本女子選手権3位。03年福岡女子国際優勝。00、04年アジア選手権優勝
◆上野3姉妹 二女・順恵(三井住友海上)と中学3年の三女・巴恵さんの3姉妹はいずれも柔道で五輪を目指す。順恵がアテネ五輪出場を逃した直後、自宅に張っていた「2人でアテネへ!」の紙を「3人で北京!」に変えた
◆健康優良児 出生時の体重は3850グラム。小学5、6年時には旭川市から健康優良児の表彰を受ける。上京して風邪をひきやすい体質に
◆好物 焼き肉。行きつけは東京・世田谷の会社の寮の近くにある焼き肉店。馬刺し、ユッケも大好物。苦手は魚の刺し身
★そのとき★
幼いころからスパルタ方式で鍛え上げてきた娘の金メダル。上野の柔道人生の原点、誠心館柔道場大雪山の師範を務める父・法美さん(51)は会場で優勝を見届けると、「最高の形で金が獲れた。長女としてよくやってくれた」と大きくうなずいた。
母・和香子さん(49)は結婚して柔道を始め、現在では三段の腕前。厳しい父の指導に反発したこともある娘の相談役も勤めてきた母は「すごく頑張った。よく頑張った」と涙を浮かべた。
★吉田秀彦★
上野の勝ちっぷりには脱帽の思いだ。世界選手権を連覇しての五輪は、勝って当然という周囲の期待や、すべての選手からマークされる重圧の中での戦いだったはず。それでも安定した試合運びで金メダルを獲ったのは、名実ともに“女王”と呼ぶにふさわしい。
派手な選手ではないが、地道にコツコツ練習を積み重ねる陰の努力家タイプだが、アテネの大舞台で圧倒的な強さを見せてくれた。スロースターターなのが気がかりだったが、1回戦を横四方固め、2回戦を優勢で突破してからは、危なげなく勝ち進んだ。どんな相手でも、組めば自分の方が上だということを証明してくれた。
決勝で敗れた泉は、僕が明大監督時代の教え子だったので、余計に悔しい。ただ、泉らしい攻める柔道で敗れただけに、仕方ないという思いもある。この痛恨の銀メダルを、どうプラス材料にできるかが大切だろう。
(柔道家)
★柔道メダルラッシュはどこまで?★
柔道も残すは重量級2階級。日本にとっては、追い込み金メダルラッシュが期待できる。19日は男子100キロ級の井上、女子78キロ級は阿武が登場。2大会連続の金メダルの最有力候補の井上に加え、アトランタ、シドニーと初戦敗退の阿武も金候補の最右翼だ。男子100キロ超級の鈴木、女子78キロ超級の塚田も、金の可能性大。柔道ニッポンが有終の美へ一直線だ。
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